投資信託を買う⑩:購入後は何をすればいい?そのポイントを解説
2020/10/02
本シリーズでは、これから投資を始めようとしている方へ、投資信託の購入前、購入後にすべきことや注意点などを解説します。
第10回は「投資信託を買った後は何をすればいいか?」についてです。
これまでの回で、投資とは長期でリターンを積み上げていくことが大前提であることは述べましたが、「それなら、一度購入してしまえば後は何もしなくてもいいのか?」と言われれば、決してそんなことはありません。
もちろん、デイトレードのように投資対象の値動きをリアルタイムで四六時中チェックする必要はありませんが、やはり運用状況を改善するために、投資信託の購入後にもやっておくべきことがあることは確かです。今回は、その中でも特に重要と考えられるポイントについて解説したいと思います。
目的は大きく2つ
具体的なポイントを解説する前に、まず何のためにそれを行うのか、目的をハッキリさせましょう。なぜなら、目的がないまま実行したところで、それを運用状況の改善につなげることができないからです。
ファンドを購入する際、投資アイディアからファンドを絞り込み、ファンドの特色などでその合致を確認しましたが(詳しくは第6回をご参照)、それはファンド購入後も引き続き確認する必要があります。むしろ、実際に購入してみて、初めてそのファンドが投資アイディアをかなえるものとして相応しいかどうかが見えてくる場合もあります。
つまり、ファンド購入後に行うべき様々なことは、集約すると次の2つを確認するためのものであると考えられます。
① |
投資アイディアが長期でリターンを得るために有効であるか |
② |
保有ファンドが投資アイディアをかなえるものとして相応しいか |
そもそも、本シリーズに沿ってファンドを購入した場合は購入の際に長期的な視点で投資アイディアを考え、ファンドを選定しているため、これら2つは購入後すぐに「当てはまらなくなった」と判断できる新たな材料が出てくる確率は低いと考えられます。
しかし、いざどちらかに疑義が生じる事態が起きたなら、それは「期待するリターンが得られるか疑わしい」ということになるため、保有ファンドの入れ替えを検討すべきでしょう。
ファンド情報のチェック
目的が分かったところで、具体的なポイントを解説します。
最初は保有ファンド情報のチェックです。代表的なものとしては以下の3つが挙げられます。
① 基準価額
② 月次レポート
③ 運用報告書
上記3つの情報は全て運用会社のHPに掲載されており、簡単にアクセスできるため、活用しない手はありません。
まず①の基準価額ですが、毎営業日の夕方以降に1回更新されます。
ここで大切なのは「いくら儲かってる(損してる)」を見て一喜一憂するためにチェックするのではないということです。基準価額をチェックするのは、その値が大きく動いたときに「何かファンドに関係のあるイベントが起こっているのかもしれない」という“気付き”と、それを調べる“きっかけ”を得るために行います。そして、これを繰り返していくうちに「こういうイベントが起こると、このファンドは基準価額が上がるんだな(下がるんだな)」という感覚が養われていくのです。
次に②の月次レポートですが、これはその名のごとく毎月作成されており(ただし、作成されないファンドもあります)、比較的タイムリーに配信されています。
月次レポートでは次のような情報が記載されています。
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基準価額の推移(ベンチマークや参考指数がある場合は併せて記載)
-
ポートフォリオの状況(資産、通貨、国・地域、業種などの構成比や組入上位銘柄など)
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マーケット動向や運用概況、今後の見通しや運用方針についてのコメント
これらもファンドによって内容は異なりますが、「ファンドやファンドが投資対象とするマーケットがどのような値動きをして、その値動きの要因は何なのか」を知るための手がかりとして大変有用な材料であることは確かです。
また、実際の組入銘柄が記載されていることから、例えば「組入銘柄の中から毎月1銘柄ずつどのような企業(資産)なのかを詳しく調べてみる」など実践的な学習を行えば、ファンドへの理解も深まりますし、その銘柄の業界知識も身に付きます。
最後に③の運用報告書ですが、原則としてファンドの決算毎(計算期間が6ヵ月未満のファンドは6ヵ月に1度、年1回決算は年に1度)に作成され、決算後2ヵ月程度で配信されます。
タイムラグは相応にあるものの、その分月次レポートよりも詳しい情報が記載されていることが特徴です。特に、より詳細な「運用報告書(全体版)」には、ファンドの全組入銘柄に加え、インデックスファンドにおいては重要度が増す「ファンドにかかった実際のコスト」など、幅広い情報が記載されています。
このように、保有ファンドの情報を通じて実質的に投資しているマーケットの状況を確認することで、「自分の考えた投資アイディアが引き続き有効かどうか」の判断材料を手に入れることができるのです。また、「保有ファンドが投資アイディアをかなえるものとして相応しいか」を判断するために、ファンドの詳細な運用状況を知ることは必要不可欠と言えるでしょう。
ちなみに、以上で紹介したファンド情報は別の記事でそれぞれ詳しく取り上げています。
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月次レポート:良い運用?悪い運用?投資信託の月次レポートの着眼点
よりファンドへの理解を深めることができるようになるため、ぜひ併せて読んでみてください。
データやニュースのチェック
次はデータやニュースのチェックです。
こう聞くと、「毎日経済新聞を読み、様々な経済指標を逐一チェックする」といったことを思い浮かべる方も多いかと思います。もちろん、できるならこれも行った方がよいのは確かですが、なかなか時間が取れない場合もあるでしょう。
そこで、「自分の考えた投資アイディアが引き続き有効かどうか」に絞って情報収集を行えばより効率的に成果が得られると考えられます。
例えば、投資アイディアが「ある国の経済成長に期待して、その国の株式に投資する」の場合、それに関連したより重要度の高いニュースやデータを優先してチェックしてみましょう。
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GDPや人口の予測データ
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産業構造の変化を示すデータやニュース
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政権交代や地政学リスクに関するニュース
具体的には上記のような情報が挙げられますが、これらは頻繁にアップデートされるものではありません。しかし、その国の中長期的な経済成長に大きなインパクトを与えるため、アップデートされた場合は必ずチェックした上で投資判断を行うべきでしょう。
また、世界的に多大な影響を与えた新型コロナウイルスの感染拡大は、今後の人々の生活様式を大きく変えた出来事と言えます。このため、様々な投資判断に影響を与えるニュースとして捉え、今一度、「自分の考えた投資アイディアが引き続き有効かどうか」を考えてみる必要があると言えそうです。
パフォーマンス比較
最後はパフォーマンス比較です。
これは、主に「保有ファンドが投資アイディアをかなえるものとして相応しいか」を確かめるために行うものです。
ベンチマークや参考指数が設定されているファンドであれば、多くの場合、月次レポートでパフォーマンス比較が記載されています。それをチェックし、ファンドのパフォーマンスが大きく劣後しているようであれば、「投資アイディアは悪くないが、ファンド選択が悪かった」可能性を疑うべきと考えられます。
ベンチマークや参考指数が設定されていないファンドでも、「ファンドの特色に共通点が多いファンド」や「投資対象の資産、国・地域、セクターなどが一致するファンド」などとパフォーマンスを比較することで判断材料とすることが可能です。
ファンドのパフォーマンス比較は、投資信託協会やモーニングスター社などのHPで行うことができます。
そして、「どの程度の頻度で行うべきか」ですが、やはり「投資判断にどの程度の時間をかけられるか」によるので、正解はありません。ただし、あまり時間がかけられない場合でも、例えば、「年1回の定期的なチェックに加え、何か大きな出来事が起こった場合は、臨時でその期間のパフォーマンス比較を行ってみる」くらいはやっておいて損はないでしょう。
「ファンドとの適切な距離感」が大切
以上、投資信託を買った後に行うべきことについてポイントを絞って解説しました。そして、これらを実践するうえで一貫して言えるのは、「過剰に気にしすぎると余計な心配を生む」ということ、また、「投資は何よりも継続が大切」ということです。
繰り返しになりますが、これらは、あくまで「投資アイディアが長期でリターンを得るために有効であるか」、そして「保有ファンドが投資アイディアをかなえるものとして相応しいか」の判断材料を集めるために行うものであるため、ファンドとは適度な距離感を保ちながらある程度機械的に行うことが大切です。そうすることで、保有ファンドの基準価額が大きく下落した時でも、集めた判断材料を元に冷静な投資判断を行えるのではないでしょうか。
長期的な視点で投資アイディアを考え、自ら選んだファンドなのですから、どっしりと構えましょう。そして、その上で、他のファンドへの乗り換えが必要と判断したのなら、迷わず実行しましょう。
それを地道に繰り返していくことこそ、運用状況を改善する近道であると筆者は強く信じています。
(執筆:1級ファイナンシャル・プランニング技能士 佐藤 啓)
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