技術で日本は世界をけん引できるか?太陽光発電「ぺロブスカイト太陽電池」について詳しく解説
2025/08/08

私たちの生活や企業活動に欠かせない「電気」。日本や世界では、AIなどの普及によって、データセンターを始めとするデジタル分野の電力需要が今後さらに拡大していくと想定されています。そういった電力需要を賄う鍵となるのが、再生可能エネルギーです。さらに、地球規模の気候変動による影響も顕著になる中、CO2排出量を抑えた再生可能エネルギーの存在感が高まっています。
今回のテーマは「再生可能エネルギー」のひとつ、「太陽光発電」。中でも日本発の技術、「ペロブスカイト太陽電池」の可能性について考えます。
日本の再生エネルギー移行の現在地と2040年の目標
現在、日本のエネルギー自給率*は、12.6%(2022年度)にとどまっており、この比率は世界各国と比較しても低い割合です。理由は日本が資源に乏しく、利用しているエネルギーのうち、83.5%を占める石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料のほとんどを海外から輸入しているためです。(グラフ1)
海外のエネルギーに依存していると、国際情勢の影響を受けやすくなり、国内で十分なエネルギーを確保できなくなる可能性があります。
さらに、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)で人間活動が主に温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことを「疑う余地がない」とする報告書が出ている中、世界的に掲げられた2050年のカーボンニュートラルの目標(2050年までに温室効果ガスの排出を全体として実質ゼロにすること)を達成するためにも、再生可能エネルギーの開発と革新が急務となっています。(グラフ2)
世界の脱炭素の動きについては「脱炭素社会の行方は?トランプ政権の政策転換とその影響」の記事で紹介しています。
*エネルギー自給率:国民生活や経済活動に必要な一次エネルギーのうち、自国内で確保できる割合
(グラフ1)日本の一次エネルギー供給構成
画像出典:経済産業省 資源エネルギー庁HP
(グラフ2)2050年ネット・ゼロに向けた進捗
「排出・吸収量ゼロが少しずつ進展している」
画像出典:環境省「2023年度の温室効果ガス排出量及び吸収量」(2025年4月発表)
電力部門のCO2排出量の大半を占めるのが火力発電所からのCO2排出であり、2050年までのカーボンニュートラルの目標を考えると、火力発電所からのCO2排出量を削減していく必要があります。
しかしながら、火力発電は、安定して大きな供給力を持つことなどから、出力が変動しやすい再生可能エネルギーの導入拡大を支える役割を担っています。太陽光発電や風力発電は、天候等の自然条件によって出力が変動したり、日照量や風況などの適地と電力の需要地が必ずしも一致しておらず、送電網の整備が必要であったりする課題があるのです。
こうした背景の中、日本は目標に向けて再生可能エネルギーの導入を少しずつ進めています。第7次エネルギー基本計画(2025年2月発表)では、2040年度までに温室効果ガスを2013年度から73%削減する目標が掲げられています。2022年度の実績としては、2013年度比で22.9%削減となっています。
また、この目標設定に伴い、再生可能エネルギーの比率を4~5割程度に引き上げることも計画されています(グラフ3)。特に太陽光発電は、その割合を23~29%程度にすることが想定されているため、太陽光発電の普及は国や世界が設定する目標達成の鍵となります。
(グラフ3)2040年度におけるエネルギー需給見通し
出所:資源エネルギー庁「第7次エネルギー基本計画」のデータをもとにアセットマネジメントOne作成
「ペロブスカイト」とは?注目されている理由は?
太陽光発電の中でも、近年特に注目されているのが、日本発の技術「ペロブスカイト太陽電池」です。ペロブスカイトは、桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が開発した次世代型の太陽電池で、軽量で曲げることができ、弱い光でも発電できます。従来型の太陽光パネルは設置場所が限られますが、ペロブスカイトはこれまで利用できなかった場所に設置できるのが強みです。現在の課題は、量産が軌道に乗るまでコストが高いことです。
市場規模の見通しは、2023年に約600億円超だったものが、2040年には約2兆円超と30倍以上に拡大するといった予測もあり、今後の世界的な投資分野になっていく可能性があります。 経済産業省は、ペロブスカイト太陽電池を普及させようと、2026年度から、化石燃料の利用が多い工場や店舗をもつ1万2000事業者に屋根置き太陽光パネル導入目標の策定を義務付けることを決めました。 また、東京都でも、2050年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げていて、ペロブスカイト太陽電池の普及を後押しするため、民間企業の設置費用を全額補助する制度を今年の秋にも開始する予定です。他に、神奈川県や福岡市などでも設置費用を補助する制度を準備しています。
画像出典:東京都「次世代型ソーラーセル紹介動画(発電する未来都市)」より抜粋
ペロブスカイト太陽電池の課題と開発競争
ペロブスカイト太陽電池は、革新的な技術として、国内外の開発競争が激しくなっています。日本は、2000年代、従来型のシリコン系太陽電池の開発・実用化で先行しながらも、中国企業に圧倒された苦い経験があります。今回のペロブスカイトは、日本が世界2位の生産量を誇るヨウ素が主原料であるなど好条件がそろっていて海外勢に勝てるチャンスがあります。とはいえ、中国勢の開発の猛追は激しくなっていて、政府や東京都などが普及を急ぐのには、量産することでコスト低減につなげ、さらなる需要を創り、海外勢に負けないスピード感を目指している背景もあるのです。
コスト以外の課題としては、「発電効率の向上」「発電パネルやシートの面積拡大」「耐久性」「環境への配慮」などが挙げられます。たとえば発電効率は、一般的なシリコン系太陽光電池が26%程度なのに対して、ペロブスカイト太陽電池は15%程度。研究は進んでいるものの、実用化にはシリコン型の発電効率にはまだ及びません。
耐久性については、例えば積水化学工業は、2013年ごろから開発に取り組んできました。耐久性に関して、他のメーカーでは小型版のもので5年に届かないところもある中、大型版で10年の耐久性を実現し、今後は20年を目指すとしています。
またトヨタ自動車は、電気自動車(EV)に搭載するペロブスカイト太陽電池の開発に2023年から着手し、小型版のもので発電効率21%を実現。パナソニックホールディングスは、住宅の窓など建材用のペロブスカイト太陽電池の開発を進めていて、実際に使う大きさのもので、世界最高レベルである18.1%の発電効率を実現しました。
具体的にどのような場面で利用できるのか?
現在、さまざまな用途での実証実験が始まっています。そもそもペロブスカイトは、フィルム型、ガラス型、タンデム型があり、それぞれ使うことができる場面が異なります。
フィルム型は、従来の太陽光パネルの十分の一くらいの重さで、軽くて曲がるため、薄い屋根や壁に設置することができます。現在開催中の大阪万博バスシェルターに設置されていて、夜間の照明用に使われています。また、福島県のサッカー施設「Jヴィレッジ」などでも実証実験が行われていて、耐久性の変化などを測定しています。
今後は、従来置けなかった場所、防災拠点となる体育館の屋根、河川敷や高速道路、鉄道ののり面などが太陽電池化する可能性もあるそうです。
【万博内のペロブスカイト太陽電池】
「約1ミリのフィルムはこれまで設置が困難だった場所への導入も可能」
ガラス型は、窓ガラスなどの建材として使うことができます。耐久性が高く、現在海外勢との競争が激しくなっている分野です。パナソニックホールディングスは、窓ガラスに埋め込むためのペロブスカイト太陽電池を開発しました。これは時間帯や使用用途に応じて「透過度」を変えられる機能を備えており、2026年度から試験的に販売も開始されます。
【ガラス型ペロブスカイト太陽電池】
「透過度を変えることで多様なデザインが可能に」
「バルコニーへの設置の様子」
画像出典:パナソニック ホールディングス株式会社
タンデム型は、ペロブスカイトと従来の太陽光パネルを融合したもので、発電効率が高くなっています。ただ、従来の太陽光パネルは、中国からの輸入に依存しています。
さらに、データセンター事業でも必要な電力供給のために、「ペロブスカイト太陽電池」を導入する動きがあります。データセンターは、サーバーやIT機器を管理する場所を貸す専用の建物のこと。昨今、生成AI活用ニーズが高まる中、AI処理のための基盤としてGPU(画像処理半導体)サーバーの需要が拡大しています。そのGPUサーバーの発熱量はかなり高く、消費電力も多いため、冷却システム及び、潤沢な電力を供給するためのデータセンターが設置されるケースが多くなっています。これから伸びていくであろうデータセンターに、ペロブスカイト太陽電池が導入されていき、こちらの需要も伸びていく可能性があるため、投資家の間で注目されています。
まとめ 再生可能エネルギーが日本に与える影響
ここまで、世界や日本の脱炭素社会の現在地、そして、実現のカギとなる「ペロブスカイト太陽電池」についてご理解いただけましたでしょうか?
電力は電線で送られてくるものではなく、使うところで作るという地産地消の考え方がこれからのスタンダードになるかもしれません。
再生可能エネルギーが国内で50%、そして100%と割合を高められれば、日本のエネルギー自給率が高まるのはもちろん、地球レベルでは気候変動対策、温暖化対策となり、カーボンニュートラルの先進的な国として世界から資金が集まる可能性があります。
さらに、もし地政学的なリスクが生じ、化石燃料の価格が上がるなどしても、自国産の再生可能エネルギーを確立していれば、エネルギー安全保障、経済安全保障の面からも安心です。
国民一人一人の関心、興味、行動が今後の世の中を作っていくと思いますので、ぜひ日本企業のペロブスカイト太陽電池、再生可能エネルギーの発展に注目してみてください。
※記載した企業名、商品・サービス名は内容の理解を深めるための一例であり、これら企業への投資や商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
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