【2024年】円安水準はいつまで続く?短期・長期要因に分けてドル円相場の見通しを徹底解説!
2024/08/29
2024年に入り為替相場は不安定な状況が続いています。米連邦準備理事会(FRB)が利上げを開始した2022年初めは110円台だったドル円相場は大きく円安となり、この円安水準がいつまで続くのか見通し難いと感じている投資家の方も多いのではないでしょうか。
そこで、本記事では2024年から足元までのドル円相場を整理し、相場への影響が大きいと考える短期要因と長期要因を洗い出しながら、今後の動向を見通したいと思います。
2024年から足元までのドル円相場
2023年末に1ドル141円程度にあったドル円相場は、2024年に入り円安基調が続いていました。背景には、FRBが利下げに慎重姿勢をみせるなか、日銀の金融政策の正常化は緩やかに進むとの思惑から日米金利差は当面開いたままとの見方が強まったことが挙げられます。7月上旬に1ドル161円台と歴史的な円安水準にありました。しかしその後、米国の6月のCPI(消費者物価指数)下振れや、日本の金融当局による円買い為替介入、日銀の追加利上げ観測の高まりなどからドル安・円高方向の動きとなりました。
こうしたなか、日銀は7月末の金融政策決定会合で追加利上げを決めました。利上げは事前報道通りでしたが、植田総裁は会見で経済・物価見通しが想定通りに推移すれば、さらなる利上げを講じる姿勢を示しました。
急激な円高の原因は?
日銀がタカ派に転じたとの受け止めから、為替市場ではこれまで積み上がっていた海外投資家の円売りポジションの急激な解消(円の買戻し)が起こり、ドル円相場で大幅な円安修正が起きました。円売りポジションの背景として、円キャリー取引が指摘されています。 円キャリー取引とは、低金利の円建てで資金を借り入れ、その資金を外貨に転換し、米国のような高金利国の金融資産で運用し、その運用益に加えて金利差による収益も狙う取引です。こうした円キャリー取引の資金は、米国株の上昇をけん引してきたAI(人工知能)関連などハイテク銘柄にも向かっていたとみられます。
また、海外投資家の日本株買いに伴う円売りポジションも考えられます。海外投資家が日本株に投資する際には、為替市場で円を買いその資金で日本株を買うことになりますが、そのままでは円の為替リスクを負うことになります。したがって円安が進展するなかでは、為替リスクを回避するための手段として、日本株を買い入れる際に為替市場で円売りの為替予約を行うことが考えられます。日銀の金融政策の緩やかな正常化を想定して、こうしたポジションを構築していた海外投資家にとって、今般の日銀のタカ派的な情報発信は想定外だったとみられ、円売りポジションの解消につながったと考えられます。
短期的には日銀の金融政策が円高要因に
円安が国内経済等に与える影響については、主なメリットとして以下の4点が挙げられます。
- ① 輸出企業の価格競争力改善を通じた輸出数量の増加
- ② 円ベースでみた輸出額の増加を通じた企業収益の改善
- ③ サービス輸出(インバウンド消費)の増加
- ④ 海外からの所得の受け取り額の増加
一方デメリットとして、以下の2点が挙げられます。
- ① 輸入コスト上昇による国内企業収益の下押し
- ② 消費者の購買力低下
長引く物価高で足もとでは、円安のデメリットを懸念する声がみられています。実際、日銀の7月展望レポートでは、個人消費関連のマインドに関し下押しの動きが指摘されています。消費動向の見通しを表す消費者態度指数は、円安等に伴う物価高への懸念から、幾分悪化した状態にあります。また、景気ウォッチャー調査における現状判断DI(家計動向関連)は、円安等による仕入れコスト高や物価高による消費者の節約志向の強まりなどを受けて、中立(50)を下回っています。
日銀の内田副総裁は、8月初めの株価急落などを受けて、「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはない」と発言し、さらなる利上げに慎重な姿勢を示しました。もっとも日本の金融環境は依然緩和的です。日銀の分析によれば、日本の中立金利(景気を冷やしも過熱もさせない実質金利)は▲1.0~0.5%程度と推計されています。これに物価安定の目標2%を勘案すれば、日本の名目中立金利は1.0~2.5%程度ということになります。7月に日銀は政策金利を0.25%程度へ引き上げましたが、名目中立金利の同下限値には及ばず、現状の金融環境はまだ緩和的といえます。したがって、日銀は足もとの金融市場環境が落ち着いてくれば、金融緩和度合いを調整するため、さらなる利上げを行う可能性があり、利上げが実施されれば円高圧力が高まります。
長期的には構造的な円安要因に注目
日銀がさらなる利上げに動けばドル円相場では円高が進展する可能性がありますが、構造的な円安要因を鑑みれば、円高圧力は限定的となる可能性があります。
こうしたなかで、最近注目されているのが日本の「デジタル赤字」です。DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展などに伴い拡大するサービス収支における赤字のことです。「サービス収支」は、インバウンドの増加を受けて「旅行収支」は黒字である一方、「著作権等使用料(ライセンス料)」の支払い増や、「コンピュータサービス(サブスクリプション代金やクラウドサービス利用)」、「専門・コンサルティングサービス(ウェブサイトの広告スペースを売買する取引)」など、グーグルやネットフリックスに代表される海外企業へのネット支払いが増加しており、サービス収支の赤字に繋がっているとの指摘があります。
また、新NISA(少額投資非課税制度)を通じた個人の海外投資の拡大も構造的な円安要因として挙げられます。財務省が公表する「対外及び対内証券売買契約等の状況」によれば、投資信託を通じて取引された株式等の金額*は、2023年の月平均額約2,900億円の買い越しに対し、新NISAが開始された2024年1月は1兆2,104億円の買い越しと統計開始以来の水準に跳ね上がりました。その後も毎月9,000億円から1兆円程度で推移し2024年1~7月の累計では7兆3,019億円の買い越しとなっており、2023年の年間買い越し額3兆5,039億円を大きく上回っています。同様のペースが続けば2024年通年では13兆円程度の買い越しとなり、過去最大を記録する可能性が高いとみられます。米インフレが鈍化し景気下支えのためFRBは利下げに転じ、これが株式などリスク資産の支えとなるとみられるなかで、個人の海外投資に関連した円売りの動きが注目されます。
*株式・投資ファンド持分における投資信託会社等の金額
※個別企業の記載はこれら企業への投資を推奨するものではありません。
まとめ
今後のドル円相場は、米景気動向や日米金融政策の行方、米大統領選などさまざまな要因によって変動性が高まる局面が予想される点には留意が必要です。足元では日銀の追加利上げ観測は後退しているとみられるものの、金融市場が落ち着きをみせれば、追加利上げがふたたび視野に入ってくる可能性があります。もっとも、デジタル赤字や、新NISAに伴う個人の円売りなど構造的な円安要因が円高圧力を抑制するとみられます。
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