インバウンド整備が、日本人の旅行を拡大させる
2018/07/27
観光白書が6月に発行されました。日本を訪れる外国人旅行者は、2017年は2,869万人となり、5年連続で過去最高となりました。2008年に政府が、2020年までに海外からの旅行者数を2,000万人とすることを目標に掲げ、国と地方、官民が一体となって取り組んできましたが、目標の2,000万人は2020年よりも前倒しで達成され、政府は2020年の目標を4,000万人に上方修正しています。今回は、観光白書をみながら日本の観光と経済の関係について考えてみたいと思います。
観光は経済活性化と相互理解
観光は日本の経済活力を取り戻すための重要な成長分野と位置付けられて、2007年に観光立国推進基本法が施行されました。急速に経済成長を遂げている新興国からの観光需要を取り込むことで、日本国内の地域活性化、雇用の創出などの経済効果が期待されています。一方で、海外からの旅行者が日本の魅力を発見し、それを自国に帰り広めてもらうことなどで、お互いの文化の理解につながることが期待されます。
実は日本人による国内旅行の振興も重要な課題ということをご存じでしょうか。観光白書によると、「日本国内における旅行消費額」の83.5%は日本人による消費で、インバウンドによる消費は16.5%の4.4兆円です。常日頃海外からの旅行を“インバウンド”と呼び、その旅行者の“爆買い”、“コト消費”などインバウンドに関するキーワードや観光スポットの話をよく聞きますが、その割には意外にまだ少なく、その分伸びしろも大きいと考えられます。
インバウンド消費は他国に比べるとまだ少ない
日本のインバウンド消費額は他の国と比べて多いのでしょうか。観光白書に掲載されている名目GDPに対するインバウンド消費の割合をグラフにしました。
出所:観光白書、International Monetary Fund, World Economic Outlook Database, April 2018のデータをもとにアセットマネジメントOne作成
調査対象の中で一番割合が高いのは、観光大国のイメージがあるタイの12.0%、次いでスペインが4.9%です。経済規模の小さいタイやスペインは、割合が高くなっています。3位のオーストラリアから10位のドイツまでは1%~3%程度となり、日本は11位の0.6%でした。
このデータから、各国のインバウンド消費額を計算してランキングにしてみると、名目GDPが最大の米国は、割合こそ1.1%でしたが、インバウンド消費額では、タイの4倍超となります。日本はというと、順位はあまり変わらず10位ですが、英国や米国、ドイツなど先進国並みの名目GDP対比1.2%程度のインバウンド消費が達成できれば、金額にして約594億米ドル(日本円で6兆5,592億円*)になり、トップの米国に次ぐ規模となります。
*1米ドル=110.44円換算(2018年7月10日現在)
出所:観光白書、International Monetary Fund, World Economic Outlook Database, April 2018のデータをもとにアセットマネジメントOne作成
インバウンドのためのインフラ整備が日本人国内旅行の需要も喚起
では、どうやってインバウンド消費を拡大させるのか。直接的に訪日人数を増やす方法以外には、国内の色々なインフラを整備することなどが重要です。先ほど日本人の旅行消費額が大きいと書きましたが、インバウンドのためのインフラ整備が、実は日本人の国内旅行を活性化し、満足度向上にも貢献するだろうと、観光白書でも指摘しています。例えば、筆者は海外の友人が来日して国内旅行をすると、いつも現金問題に遭遇します。彼らが持っているクレジットカードで日本円を引き出せるATMは限られていますし、さらに、カードが使えないお店や一定以上の額でないとクレジットカードが利用できない場合があります。皆さんも、旅行先でクレジットカードが使えないときに買い物を控えてしまったという経験をされているのではないでしょうか。その他、WiFi問題や多言語対応など、課題解決のための整備や開発に投資ニーズが生まれます。例えば、北海道のスキーリゾートであるニセコにある宿泊施設は、中東からの大所帯での長期滞在を見込み、メイドさんのための部屋が付いている大部屋をつくるなどユニークなリニューアルをしているとのことです。
次のグラフは一人あたりの観光消費額を計算したものです。日本は観光に伴う消費をスイスやドイツ、オーストラリアの半分もしていないようです。海外旅行者数ランキング(2016年)においても、日本は15位でアジアでは4位です。国民一人あたりの海外旅行回数も、1位であるスイスは1.65回ですが、日本は19位で0.14回となっており、スイスの10分の1以下です。確かに、ヨーロッパはほぼ陸続きという面もありますが、筆者のスイスの友人は、イビサ島、ギリシャ、ニューヨークとよく出かけています。インバウンドのためのインフラ整備が進むと、日本人の国内旅行の満足度向上、そして観光消費の増加にもつながります。それらが合わさることで、観光産業の拡大による今後の日本経済へのさらなる貢献にも期待できると言えそうです。
出所:観光白書、International Monetary Fund, World Economic Outlook Database, April 2018のデータをもとにアセットマネジメントOne作成
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