退職金と確定拠出年金の賢い受け取り方とは?~時期や方法で大きく変わる税金~
2021/12/03
人生100年時代と言われる中、老後を支える資金を確保することがますます重要になっています。多くの人にとってその主な資金は退職金と年金ではないでしょうか。特に退職金と確定拠出年金ですが、受け取り方次第でかかる税金が大きく変わることをご存知でしょうか?いざ受け取る時期になって慌てないように、どのように税金が変わるのか確認しておく必要がありそうです。今回は受け取り方の注意点についてみていきましょう。
退職金、確定拠出年金に係る税金とは?
退職金や確定拠出年金(企業型、個人型(iDeCo))の受け取り方は一つではありません。大きく分けて「一時金」「年金」「一時金と年金の組み合わせ」の3通りあります。受け取り方によって税金が変わるので注意が必要です。(退職金、企業型確定拠出年金の場合は、就業規則や規約等で受取方法が決まっている場合があります。)
【一時金で受け取る場合】
退職金、確定拠出年金を「一時金」で受け取る場合は「退職所得控除」の対象になります。退職所得の税額計算は、原則として他の所得と分けておこなう分離課税になります。また、計算の際は、下記計算式の通り収入金額を大きく減額する形で算出するので、退職所得は他の所得に比べて税負担が軽くなっています。ただし、他に退職所得に該当するものがあれば、合わせて計算されるので注意が必要です。
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退職所得の計算式
退職所得=(収入金額-退職所得控除額)×1/2 -
退職所得控除額
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数* (80万円に満たない場合は80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
*確定拠出年金では掛金を拠出した期間
※勤続年数1年未満の端数は1年に切り上げ
例えば・・・
<勤続年数30年、退職金2,000万円の場合の退職所得>
退職所得控除:800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円
退職所得:(2,000万円-1,500万円)×1/2=250万円
この場合、源泉徴収される金額は、15万円程度になります。
※くわしくは国税庁HPをご覧ください。
会社を退職した時に退職金を支給された場合には、通常は退職する前に「退職所得の受給に関する申告書」を提出します。この申告書を提出した場合には、「退職所得控除」を適用した退職所得の計算が行われるため、税額が大きく軽減されます。しかし、「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合には、退職所得控除が使えず、所得税および復興特別所得税は一律に退職金の20.42%の税率で計算した金額が源泉徴収されることになるため注意が必要です。
【年金として受け取る場合】
退職金や確定拠出年金を年金として分割して受取る場合は「雑所得」として取り扱われます。また、公的年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金等)と合計した収入金額に対して「公的年金等控除額」が適用されて計算されます。
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雑所得の計算式
公的年金等の雑所得=収入金額-公的年金等控除額
公的年金等控除額は下記のように計算します。
公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が1,000万円以下である場合(令和2年分以降)
公的年金等の収入金額 | 公的年金等に係る雑所得の金額 | |
---|---|---|
65歳未満の方 | 60万円以下 | 0円 |
60万円超130万円未満 | 収入金額-60万円 | |
130万円以上410万円未満 | 収入金額×0.75-27万5千円 | |
410万円以上770万円未満 | 収入金額×0.85-68万5千円 | |
770万円以上1,000万円未満 | 収入金額×0.95-145万5千円 | |
1,000万円以上 | 収入金額-195万5千円 | |
65歳以上の方 | 110万円以下 | 0円 |
110万円超330万円未満 | 収入金額-110万円 | |
330万円以上410万円未満 | 収入金額×0.75-27万5千円 | |
410万円以上770万円未満 | 収入金額×0.85-68万5千円 | |
770万円以上1,000万円未満 | 収入金額×0.95-145万5千円 | |
1,000万円以上 | 収入金額-195万5千円 |
※くわしくは国税庁HPをご覧ください。
例えば・・・
<70歳で「公的年金等に係る雑所得以外の所得金額」が1,000万円以下、「公的年金等の収入金額」が350万円の場合の雑所得>
350万円×0.75-27万5千円=235万円
納付税額はその年の他の所得とあわせて総合課税されます。上記で計算した「雑所得の金額」と他の所得(給与所得や事業所得など)を合算して所得税の税額を算出することになります。
退職金や確定拠出年金は、金額にもよりますが、多くの場合は一時金で受け取る方が年金で受け取るよりも所得金額が減額されると考えられます。ただし、退職金や確定拠出年金の一時金が退職所得控除額を大幅に上回る場合等は、税額も大きくなってきますのでどちらが良いかは慎重に判断することが必要です。退職金がいくらなのか、ライフプランはどのようになっているかなどを検討して最適な受取方を決めることが重要になってきそうです。
退職所得控除の5年ルールとは?
退職金は受け取る前年以前4年内に他の支払い者から支払われた退職金がある場合は、それらの勤続年数の重複期間を含めずに退職所得控除を計算するというルールがあります。つまり5年以上空けて受けとるタイミングをずらすと、勤続年数に調整が入らないため、税制上有利に受け取ることができるのです。
iDeCoと退職金の受け取り方について考えてみましょう。Aさんが35歳から65歳まで30年間勤務し、退職するケースで、退職金は1,600万円、iDeCoは50歳から60歳まで10年間加入して、300万円になる予定だとします。これを前提に、60歳でiDeCoを一括受取する場合を考えてみたいと思います。
iDeCoの退職所得控除:40万円×10年=400万円
60歳でiDeCoを受け取る場合は、iDeCoの受取額300万円に対して退職所得控除が400万円ですので、税金はかかりません。さらに65歳で退職金を受け取る場合には「退職所得控除の5年ルール」を利用することができます。退職金にかかる税金は以下のようになります。
退職金1,600万円の退職所得控除:800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円
退職所得:(1,600万円-1,500万円)×1/2=50万円
50万円×5%(所得税の税率)=2万5,000円
では退職金を65歳で受け取って、iDeCoを70歳で受け取った場合はどうでしょうか。実は、iDeCoの受け取りには「退職金の5年ルール」は利用できず、前年以前14年内に受けた退職金があれば、退職所得控除の重複分は差し引くというルールがあるのです。Aさんの場合ではiDeCoに加入していた10年は勤務期間に重複するのでiDeCoの退職所得控除はなくなることになり、iDeCoの受取時に税金がかかることになります。
この例からわかるように、iDeCoを5年以上先に受け取っておくことにより、税制面でお得になります。ただし、現在は定年を60歳と定めている会社も多く、iDeCoを5年以上先に受け取ることができないケースもあるので注意が必要です。退職所得控除の5年ルールも上手に活用したいですね。
iDeCoが75歳から受け取り可能に
現在iDeCoの受け取り開始時期は、60歳以降70歳になるまでの間で選ぶことが可能ですが、2022年4月からその選択の幅が60歳から75歳になるまでに拡大されることになりました。また、それに伴い、前述の「前年以前14年内に受けた退職金があれば、退職所得控除の重複分は差し引くというルール」が14年内から19年内に変更される予定となっています。これは公的年金の受給開始時期が75歳まで繰り下げて受給できるようになるのに合わせる形での変更となります。
iDeCoの受取時期を遅らせた場合、運用は非課税で継続できるものの、口座管理手数料がかかることに注意が必要です。また、掛金拠出をやめると、所得控除の税制優遇が終わってしまうため、税制優遇は運用益の非課税のみになります。これらのことも考慮して受取時期を検討する必要があります。
まとめ
人によってライフプランは異なり、退職後のマネープランも人それぞれ異なります。退職金、確定拠出年金の受け取り方やタイミングも人によって最適な方法が異なるため、自分にとって何が最適なのかを知ることが重要です。また、退職後の資金の一つとして公的年金もあげられます。退職金、確定拠出年金、公的年金など将来の収支全体を把握しておくことが重要といえます。それぞれ税制面だけでなく、金額や制度についても確認しておくといいのではないでしょうか。
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