防衛産業が「新しい成長テーマ」なワケ~市場規模や将来性、主要企業を徹底解説~
2025/12/02

「防衛産業」と聞いてどんなイメージを持ちますか?
投資家にとっては安定してるけど成長性に乏しい、あるいは特殊な分野というイメージを持っているかもしれません。
しかし、その常識は今、劇的に変わりつつあります。
世界的な地政学リスクの高まりと、日本の防衛費大幅増額という政策転換が相まって、この分野は一気に「新しい成長テーマ」として注目を集めています。
なぜ、今「防衛産業」が熱いのか?
それは、単なる予算増加に留まらず、サイバー・宇宙といった先端技術の競争領域であること、そして「安全保障」が社会貢献という観点からESG投資の対象として再評価され始めているからです。
本記事では、この巨大市場の市場規模や将来性、国内外の主要企業、そしてESGの最新動向までを、詳しく丁寧に解説します。ぜひ投資判断の一助としてご活用ください。
防衛産業の市場規模:お金はどれくらい動いている?
まず、防衛産業というものがどれほどのスケールを持つ市場なのか、具体的な数字から見ていきましょう。市場の大きさを知ることは、投資判断の第一歩です。
データで見る世界の防衛市場
世界の防衛市場は、今、国際秩序の基盤が揺らぐ「歴史的な転換点」を迎えています。
2014年以降、世界の国防費は年々増加しており、2024年には約2.7兆ドル、日本円にして約430兆円(1ドル=157.89円換算、2024年末時点)という過去最高の水準に達しました。対前年の伸び率も増加傾向にあります。
【世界の主な国防費の推移】

出所:STATISTAのデータをもとにアセットマネジメントOne作成
この急激な増加は、単なる予算の変化以上の意味を持つのではないでしょうか。過去30年間、多くの国が軍事費を削って経済成長に回してきました。この「軍事費削減時代」が終わり、安全保障への投資がグローバル経済の前提条件となりつつあることを示していると捉えることもできます。
ロシアによるウクライナ侵攻、中東情勢の不安定化、米中間の地政学的緊張の高まりなど、「力の支配に対抗する備え」が世界各国で広がっていることは多くの方が肌で感じ取っていることだと思います。
そして、この市場の特性として理解すべきは、資金が動くのは有事だけではないという点です。
「防衛産業って戦争がないと儲からないの?」
この素朴な疑問に対する答えは“ノー”です。防衛産業が扱うのは、戦闘機やミサイルのような「武器」だけではありません。市場の大部分を占めるのは、「抑止力としての予算」です。
具体的には、老朽化した装備の近代化、システムの研究開発(R&D)、兵器の維持・管理・修理といった、平和を維持するための安定的な投資が軍事費の大部分を占めています。そのため、国の予算に基づいて事業が着実に進むのが大きな特徴です。
日本の市場規模はこれからどう変わる?
日本の防衛産業市場は、まさに「新しい成長テーマ」の最前線と言えそうです。その背景には、国の明確な政策転換とそのスピードにあります。
高市政権は、国家安全保障戦略で掲げられた「防衛費を2027年度までにGDP比の2%に引き上げる目標」を2年前倒して2025年度中の実現を目指す方針を示しました。これは、従来以上に防衛が緊急性の高い課題へと見直されたことを意味します。
現行の防衛力整備計画では2023年度から2027年度の5年間で総額約43兆円の防衛費が積み上がる計画ですが、この前倒しが実現すれば、さらに増額される可能性があります。防衛費の中で特に増加額が大きい項目は以下の3つです。
- ① 反撃能力の保有を含むミサイル攻撃への対処・抑止
- ② 自衛隊施設の老朽化対策、弾薬・誘導弾の確保、航空機や艦船などの維持整備
- ③ 宇宙・サイバーなどの領域横断対応
これらの分野に対して政府から継続的な投資が行われることから、関連企業にとっては安定的かつ大きな業績貢献が期待できるでしょう。
防衛産業の「日本のエース」と「世界の巨人」は誰か?
防衛産業が「新しい成長テーマ」であることを確認したところで、次に重要となるのが、実際にこの恩恵をより大きく受けられる可能性が高い企業を知ることです。日本と世界の主な企業をご紹介します。
日本の防衛産業を支える企業
日本の防衛産業は、特定の兵器や技術に特化した企業というより、民生品でも知られる重工業メーカーや総合電機メーカーが担っているのが特徴です。そのため、企業の防衛部門の売上額だけでなく、売上全体に占める比率にも着目するとよいでしょう。
- 三菱重工業
機械・造船・原動機・エンジン・航空・防衛用機具など、様々な分野における総合重機械および装置を製造する企業です。防衛分野では潜水艦や戦闘機、ヘリコプター、ミサイルなどを製造しています。防衛部門の売上規模は国内最大級であり、日本の防衛費増額の恩恵を広範囲に受けると考えられる企業です。
- 川崎重工業
船舶、ジェットエンジン、ボイラ、環境装置、産業用ロボットなどを製造する企業でエンジニアリングサービス、建築工事、福利施設の管理なども手掛けます。防衛分野では潜水艦、輸送機、ヘリコプターなど、特定の大型装備に強みがあります。潜水艦や輸送機は維持管理の予算も大きく、日本政府からの安定的な発注が見込めます。
- 三菱電機
産業機器をはじめ重電機器、データ通信システム、電子機器、家庭電器製品などを製造する総合電機メーカーです。防衛分野ではレーダー、誘導弾(ミサイル)、射撃管制装置、衛星通信など、高度な電子・通信システムなどを手掛けます。警戒監視や誘導技術に強く、特に予算が増加しているミサイル防衛における最重要企業の一つです。
世界の防衛産業をけん引する企業
続いて世界のトップ企業をご紹介します。世界をリードするのは、市場規模が巨大なアメリカの企業群です。日本企業と比較して圧倒的な売上高を誇ります。
- ロッキード・マーチン (米国)
宇宙、電気通信、電子機器、航空およびシステム・インテグレーションなどの事業を手掛ける世界最大の防衛企業です。F-35戦闘機、ミサイル防衛システムなど、ハイエンドな兵器を開発・製造しています。2024年の年間売上高は約11.2兆円(1ドル157.89円で換算、2024年末時点)と日本の防衛予算を優に超えるレベルです。
- RTX(米国)
2020年にユナイテッド・テクノロジーズとレイセオンが合併して発足した企業で、航空システム、通信機器、航海機器、環境制御システム、操縦システム、エンジン部品などを製造しています。航空宇宙と防衛技術の両分野で優位性があり、特に誘導技術に強みを持ちます。
- ボーイング (米国)
世界最大の航空宇宙企業で商用航空機、防衛製品、宇宙システムを開発・製造します。防衛分野では戦闘機、爆撃機、輸送機などを製造しており、商業航空機と並行して、軍用機市場でも圧倒的な存在感を示しています。
日本と世界の違い
世界トップ企業と日本の主要企業の最大の違いは市場規模と輸出戦略です。
例えば、三菱重工業の2024年度の売上高は約5兆円、その内航空・防衛・宇宙セグメントの売上高は約1兆円であるのに対し、ロッキード・マーチンの2024年の売上高は約11.2兆円にものぼります。この売上規模が莫大な研究開発費(R&D)の投入を可能にしています。
その背景には、海外企業は世界中に製品を輸出することで規模の経済を成立させていることにあります。一方、日本企業はこれまで輸出規制が厳しかったため、国内需要のみに依存してきました。
しかし、近年、日本政府は防衛装備移転の枠組みを緩和し始めています。これは、日本企業が今後、海外市場という新たな成長機会を取り込めるようになる可能性を示唆しており、投資においても重要な判断材料と言えるでしょう。
ESGの観点で「防衛産業」はどう見られているか?
防衛産業を投資対象として捉える上で、避けて通れない大きな議論があります。それがESG(環境・社会・ガバナンス)投資の評価です。
長らく、防衛産業はESG投資の観点から「投資対象外」と見なされてきました。なぜなら、多くの投資家は兵器製造を「社会的にネガティブな要素」として除外していたからです。
しかし、今、この投資の概念が変わり始めています。

「防衛=投資対象外」だった理由
ESG投資では、一般的にネガティブ・スクリーニングという手法が使われます。これは、タバコ、アルコール、ギャンブル、そして兵器製造など、社会的に有害と見なされる特定の事業を行う企業を投資対象から一律に除外する手法です。
防衛産業は、このネガティブ・スクリーニングの対象となることが多く、「E(環境)」や「G(ガバナンス)」に問題がなくても、「S(社会)」への貢献という観点で低評価でした。特に、クラスター弾や対人地雷などの国際条約で禁止されている非人道兵器を製造する企業は、厳格に除外されていました。
転換点:「安全保障」が「社会貢献」に
この常識を打ち破った最大の要因は、2022年以降の国際情勢の劇的な変化、特にロシアによるウクライナ侵攻です。
戦争が現実のものとなり、「平和と安定」の前提が崩れかねない状況下で、多くの投資家や政策決定者が、防衛産業を新しい視点から評価し始めました。
- 社会(S)への貢献
抑止力が機能しなければ、市民の生命や社会基盤そのものが破壊されます。「国家の安全保障の維持」は、社会の安定と持続性(サステナビリティ)を守るための必要不可欠なコストであり、「社会(S)への貢献」であるという見方が強まりました。
- 投資家の具体的な行動
実際にスウェーデンやドイツなど、長らく防衛産業への投資に慎重だった欧州の機関投資家の一部が、非人道兵器を製造していない企業に限定して、投資方針を見直し始めています。
これは世界の投資哲学の転換であり、防衛産業が単なる「軍需産業」から「安全保障というインフラ産業」として、再び世界の巨大な投資マネーの流入先となる可能性があります。
次世代の防衛:これからの技術やトレンド
防衛産業に投資する場合、既存の戦車や艦艇といったハードウェアだけでなく、「将来の成長領域はどこか」に着目することも重要です。ここでは防衛産業の中でも最先端の技術やトレンドである宇宙とサイバー、そして軍民両用技術(デュアルユース)をご紹介します。
宇宙とサイバーの「新しい戦場」
防衛予算が増額される中でも、より成長が見込まれるのは物理的な領域を超えた「領域横断」分野です。
- 宇宙防衛:衛星データとミサイル防衛の要
宇宙はもはや偵察だけの場ではありません。衛星は通信、情報収集、そしてミサイル早期警戒の要です。
衛星コンステレーションと呼ばれる、多数の小型衛星を連携させることで、地上の動きをリアルタイムで監視する能力が重要になっています。また、極超音速兵器などの開発競争が進む中、ミサイル防衛として宇宙からの追跡・監視能力への投資が必要不可欠です。
この分野では、ロケット技術だけでなく、衛星データ解析や画像処理などIT技術を持つ企業に大きなビジネスチャンスがあります。

画像出典:ISAS/JAXA(イラストは科学技術振興機構)
- サイバー防衛:情報戦を制するインフラ
国家間の対立において、最初に攻撃対象となるのは電力、通信、金融などの重要インフラです。
他国からのサイバー攻撃を防ぐための防御システム(サイバーセキュリティ)だけでなく、情報戦に対抗するための情報収集・分析(インテリジェンス)システムへの投資が急増しています。
また、指揮統制システム(C4I)の高度化・デジタル化も極めて重要な役割を担います。
この分野は、防衛予算の枠を超えて、国全体のデジタル化推進という文脈からも持続的な成長が見込めるテーマです。
軍民両用技術(デュアルユース)の進化と投資機会
もう一つ、大きな投資機会が潜んでいるのが、民間で開発された先端技術を防衛分野に応用する「デュアルユース」のトレンドです。
- なぜデュアルユースが重要か?
防衛産業のR&Dのスピードは、しばしばIT業界のスピードに追いつけません。そこで、AI、量子技術、IoT、ドローン技術など、民間企業が最先端を行く分野を防衛装備に取り込むことで、技術的な優位性を確保する流れが加速しています。
例えば、偵察や輸送などに使われるドローンや無人機の技術は、民間の知見がそのまま防衛力に直結する典型例です。
また、ビッグデータやAIを活用し、膨大な監視データや通信データをリアルタイムで分析し、指揮官の判断をサポートする技術は、戦術の優劣を決める鍵となります。
- 中小企業にも注目が集まる
このトレンドは、重工業や総合電機メーカーだけでなく、高い専門性を持つ中小企業にも大なチャンスをもたらします。
特定のAIアルゴリズムを持つ企業や高度なセンサー技術や通信技術を持つ企業などは、防衛部門の売上比率が低くても、その技術が政府の研究開発テーマに採用されることで、急激な業績貢献を果たす可能性があります。
投資家として、民生分野での優位性を持ちながら、防衛分野への参入を図る企業にも注目すると面白いと思います。
まとめ:投資戦略への活用
これまでの分析を通じて、防衛産業が国際情勢の切迫と国内政策の転換により、「安定成長」から「新しい成長テーマ」へと位置づけを変えたことがお分かりいただけましたでしょうか。
防衛産業への投資を検討する上で、把握すべき重要な要素は以下の3点です。
- ①市場の成長性
世界の市場規模が拡大しています。国内では高市政権によるGDP比2%目標の「2年前倒し」が、市場の成長スピードを加速させます。43兆円の枠組みを超える拡大が期待でき、関連企業の収益に直接貢献します。
- ②ESG
「抑止力=社会貢献」という投資の概念の変化が、世界の投資マネーの流入を促します。非人道兵器を製造していない企業であれば、このESG再評価の潮流において、多くの投資家の新たな投資対象となる可能性があります。
- ③企業選定
ITや電子機器分野は、サイバー・宇宙といった成長トレンドのど真ん中であり、高い成長が期待できます。ミサイルや維持整備は、安定した受注が見込める中核事業です。
また、市場規模や企業の優位性に加えて、デュアルユース(軍民両用技術)を持つ企業や、コアな技術を持つ中小企業などを見つけ出すことが、今後の成長を捉える鍵となるでしょう。
本記事がこの新しい成長テーマの理解と投資判断の一助につながれば幸いです。
(執筆:1級ファイナンシャル・プランニング技能士 佐藤 啓)
※記載した企業名、商品・サービス名は内容の理解を深めるための一例であり、これら企業への投資や商品・サービスの購入を推奨するものではありません。
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