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最低賃金の引き上げで物価高時代を乗り切れるか?制度の課題と可能性を解説

2025/12/23

知恵のハコ

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最低賃金は、私たちの生活を支える大切な制度です。
しかし、現在の地域別最低賃金の加重平均額である「時給1,121円」(2025年)は、本当に「安心して暮らせる額」と言えるのでしょうか。物価高騰や経済格差が広がる中、政府は時給1,500円を目指しているものの、現実を見ると企業側の負担もあり、その実現性を疑問視する声もあります。

最低賃金の上昇で私たちの暮らしや働き方はどう変わるのか?本記事では、最低賃金の仕組みや国際比較を交え、引き上げのメリット・デメリットについて解説した上で、引き上げが生活や地域経済に与える影響を考察します。

未来の働き方や地域社会の可能性を一緒に考えてみましょう!

最低賃金とは?その役割と政府の現状

最低賃金の定義と役割

最低賃金とは、労働者が1時間働いた際に最低限支払われるべき賃金を法律で定めたものです。この制度は、労働者の生活を保障し、経済の安定を図ることを目的としています。企業はこの基準を下回る賃金で労働者を雇うことは禁じられており、違反した場合には罰則が課されるため、制度の厳格な運用が求められています。

最低賃金の役割は、特に非正規雇用者や低賃金労働者の生活を支えることにあります。賃金の最低ラインを設けることで、労働者が最低限の生活を維持できるようにし、貧困問題の緩和を目指しています。

最低賃金額の種類

日本の最低賃金は都道府県ごとに定められる「地域別最低賃金」と、特定の産業に適用される「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。

地域別最低賃金

「地域別最低賃金」は、都道府県ごとに設定される最低賃金で、その地域で働くすべての労働者に適用されます。これは、地域ごとの生活費や経済状況を考慮して決定されるため、物価の比較的高い都市部では高めに、物価の比較的安い地方では低めに設定される傾向があります。例えば、2025年度の東京都の地域別最低賃金は1,226円、沖縄県では1,023円と、地域間で差があります。

特定(産業別)最低賃金

「特定最低賃金」は、特定の産業に従事する労働者に適用されるもので、地域別最低賃金よりも高い場合が多いのが特徴です。これは、都道府県別に産業ごとの業務内容や賃金水準を考慮して細かく設定されています。例えば、「北海道:鉄鋼業」のように、「都道府県:業種」という分類となります。ただし、特定最低賃金が設定されていない業種では、地域別最低賃金が適用されます。

近年の最低賃金をめぐる動き

【地域別最低賃金の加重平均額と前年度比】

地域別最低賃金の加重平均額と前年度比

※厚生労働省のデータをもとにアセットマネジメントOne作成

※期間:2002年度~2025年度(年次)

業種により賃金の違いはありますが、全国加重平均最低賃金を見ると、2023年度には1,000円を超え、2025年度現在では1,121円となり年々増加傾向にあります。前年度比では2024年度は5.1%増(前年度比51円増)、2025年度は6.3%増(前年度比66円増)と過去20年間で最大の増加幅となりました。

【地域別最低賃金の最高額に対する最低額の割合】

地域別最低賃金の最高額に対する最低額の割合

※厚生労働省のデータをもとにアセットマネジメントOne作成

※期間:2002年度~2025年度(年次)

2025年の都道府県別では、東京都(1,226円)、神奈川県(1,225円)、大阪府(1,177円)など、大都市圏が高い傾向にあります。一方で、高知県、宮崎県、沖縄県(いずれも1,023円)など、地方都市が低い傾向にあります。
各年の最高額に対する最低額の割合でみた場合、2002年では約85%と地域間の格差は比較的小さい状態でした。2006年頃からこの比率は急激に下がり格差が拡大しましたが、2015年以降は徐々に回復し地域間の格差は縮小傾向にあります。

直近の政権では以下のように、表明されております。

  • 岸田政権:「2030年代半ばまでに全国加重平均が1,500円となることを目指す」と表明
  • 石破政権:「2020年代中」への前倒しを表明

2030年度までに全国加重平均で1,500円を達成するには、5年で平均75.8円/年もの高い引き上げが必要となります。これは、過去の引き上げペースを大きく上回る目標であり、ハードルの高さがうかがえます。

2025年11月末時点の高市政権では、賃上げを実現するための環境整備を優先し、中小企業や地方事業者への配慮を重視しています。「2020年代中に1,500円達成」という石破政権の目標を撤回せず「この5年でたゆまぬ努力を続けていくとする目標」としつつ、具体的な期限設定には慎重な姿勢を示しました。地方事業者への負担を懸念し、賃上げを可能にする政策の実行を現段階の重点としています。今後の具体的な成果に期待が寄せられます。

賃金の国際比較

日本の法定最低賃金の水準は、常勤労働者の総賃金の中央値に対する割合でみた場合、2024年時点でOECDに加盟する法定の最低賃金制度がある30か国中で5番目に低いというデータがあります。

諸外国の最低賃金推移を比較すると、日本は低い水準にとどまっていることがより鮮明に確認できます。ヨーロッパ諸国は積極的な賃金政策を通じて労働者の保護を推進し、最低賃金の引き上げが生活水準の向上に大きく寄与している点が特徴的です。

物価上昇が続く昨今、最低賃金の見直しが国民の期待に応えられるものとなるのか、今後の政権の動向には注目が集まっています。

【諸外国 最低賃金比較推移】

諸外国 最低賃金比較推移

※労働政策研究・研修機構 (JILPT) のデータをもとにアセットマネジメントOne作成

※各年、1月1日時点の最低賃金額

日本の最低賃金が国際的に低い背景には、労働生産性の低さも要因の一つと考えられています。このため、政府は労働生産性を上げるための政策を進めています。日本生産性本部「労働生産性の国際比較」によると、OECDデータに基づく2023年の日本の時間当たり労働生産性はOECD加盟38カ国中29位と、主要国の中で下位に位置しています。

この低い労働生産性の背景には、日本の働き方の文化や残業時間に対する生産性の密度の低さ、デジタル化の遅れなども影響しており、結果的に企業が高い賃金を支払う余力を制限する要因のひとつでもあります。さらに昨今の原価高騰に対する十分な対価を捻出する難しさも加わり、総合的に、日本では最低賃金のボトムアップが困難な状況を招いているとも言えるかもしれません。

一方で明るい兆しもあります。日本の労働生産性上昇率は38カ国中9位と比較的高い水準にあり、今後の改善に向けた可能性が秘められているとも考えられます。

最低賃金引き上げのメリットとデメリット

最低賃金の引き上げは、労働者の生活水準を向上させるとともに、経済の活性化につながる明るい展望をもたらすかもしれません。しかし、その一方で、中小企業への負担や雇用への影響といった課題も伴います。この制度がもたらすメリットとデメリットについて一緒に考えてみましょう。

メリット

生活改善や経済成長

最低賃金の引き上げは、労働者の生活改善や経済成長に寄与すると期待されています。労働者がより安定した収入を得られることで、生活の質が向上し、消費の拡大を通じて経済全体の活性化が進むと考えられます。また、物価高騰への対応として国民の購買力を維持する効果も期待されています。消費の促進は地域経済の活性化にも貢献する重要な要因となると考えられます。

労働環境改善やモチベーションアップ

さらに、最低賃金の引き上げは労働環境の改善にもつながります。賃金の上昇により労働者のモチベーションが向上し、雇用の安定化や若年層の定着率向上に寄与する可能性があります。企業側も優秀な人材を確保するために職場環境を整える必要があり、結果として働きやすい環境の改善が促進されるでしょう。

労働環境改善やモチベーションアップ

デメリットと課題

企業への負荷

最低賃金の引き上げに伴う最大の懸念は、中小企業への負担です。人件費の増加により、特に経営資源が限られた中小企業では、倒産リスクの増大や事業縮小を招く可能性があります。
また、企業が最低賃金の増加による総人件費の上昇を抑えるために解雇や非正規雇用の拡大といった雇用調整を行う場合、一部の労働者が職を失うリスクも高まります。そのため、最低賃金の引き上げがすべての労働者に恩恵をもたらすわけではない点に注意が必要です。

物価上昇懸念

最低賃金の引き上げによって、人件費の増加分が商品やサービスの価格に転嫁され、物価が上昇する可能性があります。その結果、賃金の増加が必ずしも生活改善につながらない懸念が生じます。特に現在の日本では物価高騰が続いており、この問題は長期化する可能性があるため慎重に捉える必要があります。

地域間格差による課題

最低賃金の地域差は、地方の雇用環境における重要な課題の一つです。この賃金格差は、地方の雇用条件の不利さを浮き彫りにするとともに、地方から都市部への人口流出を加速させる要因となる可能性があります。さらに、人口流出が進むことで地方の労働力不足や地域経済の縮小といった深刻な課題を招く恐れがあります。このような状況を改善するためには、地域間の賃金格差を是正し、均衡の取れた雇用環境を実現するための具体的な取り組みも求められるでしょう。

雇用の未来、技術革新と地域経済の可能性

生成AIの導入と各国の状況

日本では、長時間労働や残業が多い労働文化が時間当たりの生産性の低さにつながっていますが、働き方改革により改善が進んでいます。これをさらに促進するため、デジタル化や技術革新を活用し、時間対成果を向上させることで賃金の底上げを目指す取り組みが進められています。特にAIや自動化技術の導入が注目されており、生産性向上と賃金引き上げの両立を図る動きが加速しています。

しかし、総務省が公表した日本、米国、ドイツ、中国の4か国を対象とした生成AI活用方針策定状況に関するアンケート調査によると、自分が所属する企業で生成AIを「積極的に活用する方針」と回答した割合は、日本が23.7%と他の3か国に比べ低いことが明らかになりました。この結果は、日本におけるAI導入の整備がまだ進行中であり、今後の取り組みに期待がかかることを示しています。また、大企業と中小企業の間でも、導入方針に違いが見られる点が課題として浮き彫りになっています。

さらに、生成AIの活用に関する調査では、「何らかの業務で生成AIを利用している」と回答した割合が日本では55.2%となり、こちらも他国と比較すると遅れている様子がうかがえます。これらのデータは、日本が技術革新を活用して労働生産性を向上させ、最低賃金引き上げに伴う企業負担を軽減するための取り組みを加速させる必要性を示唆しています。

【生成AIの活用方針策定状況(国別)】

生成AIの活用方針策定状況(国別)

【企業における業務での生成AI利用率(国別)】

企業における業務での生成AI利用率(国別)

(出典)総務省(2025)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」

身近な例として、飲食業や製造業ではロボットを活用した業務効率化が進展しており、これらは人件費を抑えつつ生産性を向上させる取り組みの一つと言えるでしょう。技術革新は、企業の競争力を強化するメリットがある一方で、低技能労働者の雇用機会を減少させるリスクも伴います。そのため、政府や企業は、技術革新に伴う雇用変化に対応するため、再教育やスキルアップの支援を強化する必要があります。

地域経済の雇用創出

最低賃金の引き上げは、地域経済の活性化にも大きな期待が寄せられています。地方では都市部に比べて最低賃金が低い傾向がありますが、これを引き上げることによって労働者の生活水準が改善され、地域内での消費拡大が見込まれます。特に、地方の飲食店や小売業は住民の生活水準改善の恩恵を受けやすく、これを通じて収益を増やすことができれば、地域経済の循環の促進につながります。

さらに、都市部と地方の賃金格差が縮小することで、地方への移住や定住が促進され、人口減少問題への対応にもつながります。ただし、地方の中小企業が賃金引き上げによる負担に耐えられるよう、政府による特別な支援策が不可欠です。最低賃金の引き上げは、地域経済の再生と雇用創出の鍵となる可能性を秘めており、持続可能な地域社会の構築に向けた重要な取り組みと言えるでしょう。

雇用の未来、技術革新と地域経済の可能性

最低賃金制度に求められる対応

最低賃金制度は、労働者の生活を守る重要な仕組みですが、その恩恵を最大限に活かすためには、労働者自身の意識と企業の経営努力が欠かせません。

労働者側

労働者にとっては、自分の賃金が最低賃金を満たしているか確認することが重要です。都道府県ごとに最低賃金額は異なるため、厚生労働省のウェブサイトや労働基準監督署で最新情報をチェックすることが推奨されます。最低賃金を下回る賃金が支払われている場合には、権利意識を持ち、適切な賃金交渉や雇用契約の内容確認を行うなど、安心して働ける環境を自ら整えることも必要でしょう。

企業側

一方、企業側には最低賃金引き上げに対応するための経営戦略が求められます。特に中小企業では、人件費の増加が経営の負担となるため、労働生産性の向上や業務効率化が重要な課題となります。AIや自動化技術を導入することで業務を効率化し、限られたリソースで成果を高めることが可能です。さらに、政府が提供する助成金や補助金が活用できれば、導入負担を軽減することができます。例えば、「業務改善助成金」や「中小企業新事業進出促進補助金」などがあり、経営改善への取り組みに役立てることも可能です。

労働者と企業がそれぞれの役割を果たすことで、最低賃金制度がより効果的に機能し、持続可能な経済環境の構築につながることが期待されます。

最低賃金制度に求められる対応

まとめ

最低賃金は、私たちの生活を支え、経済の安定を図る重要な制度です。引き上げによって生活水準の向上や消費拡大が期待される一方、中小企業の負担増や雇用調整といった課題も伴います。政府は引き上げを目指して、助成金や技術革新を活用した支援策を進めていますが、労働者、企業、地域が協力し合うことが必要不可欠です。

最低賃金を巡る議論は、私たちの働き方や地域社会の未来を考える上で欠かせないテーマでもあります。今後の政府の動向に注目し、その行方を見守りながら、私たちの働き方や地域社会が明るい未来へと進むことを期待したいところです。

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