数字で知る「食品ロス」の現状と問題点~みんないくら損してる?~
2023/05/19
子供の頃から「食べ物を捨てるのはもったいないこと」、「食事を残してはダメ」と注意されてきた人は多いのではないでしょうか。本来食べられるはずなのに、見た目が悪い、余ってしまった、などの理由で廃棄されてしまう食べ物を「食品ロス」といいます。食品ロスへの関心は近年急速に高まっており、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」においても「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる。」と具体的なターゲットが掲げられています。
しかしながら、食品ロスについてなんとなく悪いこと、というイメージはあっても、具体的になにが起きているのかイメージできる方は少ないのではないでしょうか。本記事では、食品ロスの現状と問題点をリアルな数字を用いて読み解いていきます。
1.食品ロスの現状
皆さまは日本で実際にどれくらい食品ロスが発生しているかイメージできますか?
本来食べられるのに捨てられる食品ロスの量は年間522万トンと推計されています。(令和2年度推計値)。522万トンと聞いても膨大すぎてピンときませんが、日本人1人あたりで換算すると年間約41kg。日本人全員が毎日お茶碗一杯分のご飯を捨てているのに近い量となるそうです。また、522万トンという量は、世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食糧支援量420万トン を大きく上回っています。支援する以上の量を捨てている、というのは、居心地悪く感じます。
食品ロスは家庭で出るものばかりではありません。食品ロスを大きく分けると、事業活動を伴って発生する「事業系食品ロス」と、各家庭から発生する「家庭系食品ロス」があります。事業系食品ロスには、食品製造業、食品卸売業、食品小売業、外食産業が含まれます。割合で見ると、事業系食品ロスが53%、家庭系食品ロスが47%となっています。
【 食品ロスの内訳 】
出所:「食品ロスとは」(農林水産省)のデータをもとにアセットマネジメントOne作成
事業系食品ロスは、賞味期限切れの食品の廃棄などがニュースなどでもよく取り上げられるため、食品ロスの多くを占めているイメージがあるかもしれませんが、数字で見ると家庭からも多くのロスが出ていることが分かります。
食品には鮮度があり、永遠に保存しておくことはできないので、廃棄することもある程度仕方がないじゃないか、という考え方もあるかもしれません。また、食品の生産・出荷量を増やしたことで経済的な発展がもたらされた一面もあります。さらに、賞味期限などの品質保持期限があるからこそ、私たちは安全に食品を購入できます。食品ロスの増加は経済面での恩恵の裏にある負の側面として受け入れるべき、という考え方も存在します。
食品ロスの現状をふまえ、次に食品ロスがどのような問題をもたらしているか見ていきましょう。
2.食品ロスの問題点
食品ロスの問題点は大きく分けて3つあると言われています。1つ目は環境的問題、2つ目は倫理的問題、3つ目は経済的問題です。環境的問題と倫理的問題は身近でイメージしやすいかもしれません。環境的問題は「食品は水分が多いため、ゴミの輸送時や処分時に余分な二酸化炭素が発生する」、倫理的問題は「地球上には満足に食事を取れない人々もいるのに、まだ食べられるものを捨てるのは良くない行為だ」といった内容です。
それでは3つ目の経済的問題はどうでしょうか?食品ロスがもたらす「コスト」について具体的に考えてみましょう。
(1)生産・流通コスト
食品ロスは、食べ物を捨てることで、その食べ物の生産や加工・流通時に必要とした費用をも無駄にすることになります。例えば、農産物を例に考えてみましょう。種や苗の購入、ハウス栽培であれば施設の維持管理、水、肥料、収穫後の選別や包装、お店や市場までの運送、農作物を育てる農家や販売業者の人件費…少しイメージしただけでも、たくさんの場面でコストが発生しています。また、それを私たち消費者が買いに行くための車のガソリン代、買い物に割く時間…こういったものもコストとして発生していると考えることができます。1つの食品を捨てることの裏側で、さまざまなコストも一緒に破棄しているといえます。
(2)家計コスト
家計で発生する食品ロスは金額に換算するとどれくらいでしょうか。京都市の試算(令和元年度)によると、1世帯(4人家族を想定)が1年間に廃棄する「食べ残し」と「手つかず食品」の費用は約56,000円にもなるそうです。日々の細かな廃棄からは想像がつきにくいですが、1年間分がまとまると大きな金額だと感じられるのではないでしょうか。なお、物価高による令和5年度の1世帯あたりの食料品への支出は前年度から約3万円増えるとされていますが、食品ロスで失うコストを6割程度削減できれば物価高を相殺できる、という見方もできます。食品ロスは家計にも大きな影響を与えているのです。
(3)ごみの処理コスト
令和3年度の全国のごみ総排出量は4,095万トン。ごみ処理事業経費、つまりごみ処理に使われた税金は約2兆1,450億円でした。食品ロスが年間522万トンとすると、食品ロスにかかっている税金は約2,730億円と試算できます。日本の人口を1億2,000万人とすると、国民ひとりあたりが食品ロスに払っているコストは年間約2,280円。家族4人であれば総額1万円近い費用となります。食べられる食品を廃棄するのに、私たちはこれだけの税金を使っているといえるのです。
食品ロスは家計や社会に大きな負荷をかける、経済的損失を伴う行為であることがお分かりいただけたのではないでしょうか。前述したように食品ロスについては様々な考え方がありますが、社会の貴重な資源を失う行為であることはやはり否定できません。その半分近くが家庭から排出されているということを考えると、消費者である私たちの責任も重く、逆を言えば私たちの行動次第で大きく改善していける社会問題ということもできるかもしれません。
3.食品ロスの未来
食品ロスを減らすために、私たちは何ができるでしょうか?生活に身近なところで取り組むことのできる例をご紹介します。
(1)ミールキット
料理のために必要な材料、調味料等がセットになっているミールキット。あらかじめ下ごしらえがされている具材に火を通すなどの調理をするだけで、簡単に夕食のメインディッシュが出来上がるため、筆者も重宝しています。といっても、家事を楽にするために使っていたのですが、先日ミールキットが食品ロスの削減にもなることを知りました。必要な食材が必要な分量だけ入っていることで、家庭でのごみ廃棄量を大きく減らすことができるのだそうです。さらにもう一歩進んで、「本当は食べられるのに見た目や食感が理由で消費者のもとに届かず廃棄されてしまう食材」を活用して構成されたミールキットも開発されており、コストを削減しつつ新しいビジネスを展開する例として高い注目を浴びています。一消費者としても、普段の家事が楽になり、かつ食品ロス削減にも貢献できるとしたら、とても良いと感じました。
(2)予約販売
2月3日の節分に、その年の恵方を向いて「恵方巻き」と呼ばれる太巻きを食べる習慣は、ここ数年で非常に身近になったように感じます。恵方巻きがブームになった頃、同時に問題視されたのが大量の廃棄問題でした。節分は1日限りであり、恵方巻は日持ちしないにもかかわらず、販売店が当日の品切れを恐れて過剰に仕入れてしまうこと等が背景にあったと考えられます。
現在、多くの販売店では予約販売に取り組んでいます。消費者にとって予約はひと手間とも思えますが、事前に商品を見比べてどれを購入するかじっくり検討できる、当日バタバタと買いに行くことなく楽しめるといったメリットもあります。適切な需要を把握することで、誰からも求められない恵方巻を減らす取り組みは今後も拡大していくことでしょう。筆者も次の節分にはぜひ予約販売を利用しようと思います。
ほんの少しの意識の変化で、日々の暮らしの中で食品ロスを減らすことに少しずつ取り組むことができそうです。また、食品ロスを減らす機会を積極的に提供する企業や、先進的な取組みを行う企業にぜひ注目してみましょう。「環境問題、倫理問題、経済問題」にしっかりと取り組む企業として、今後一層消費者から評価されていくかもしれません。
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