紙幣はなぜ変更される?–紙幣刷新の理由とその影響–
2024/12/27

2024年7月3日、新しい一万円札、五千円札、千円札が私たちのお財布に仲間入りしました。手に取った瞬間、その鮮やかで精巧なデザインに驚いた方も多いのではないでしょうか。渋沢栄一、津田梅子、北里柴三郎が新たな顔となった日本の紙幣ですが、その刷新にはどんな意味があるのか、あらためて気になりませんか?
「紙幣の変更」と聞くと、デザインや肖像画に関する話題に目が行きがちですが、実はそれだけが目的ではありません。紙幣の刷新には、経済、技術、文化、そして私たちの生活を守るための多くの理由が隠されています。本記事では、紙幣変更の背景やメリット・デメリットなどを掘り下げて考えてみたいと思います。
紙幣の歴史と新紙幣の意味
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〈武内大臣が描かれた大正兌換銀行券1円札〉 | 〈平和の象徴として鳩が採用されたA号十銭券〉 |
日本の紙幣は、長い歴史を持っています。遡ること約150年前、日本で初めての全国通用政府紙幣である「太政官札(だじょうかんさつ)」が発行されて以来、紙幣はデザインや素材、技術がたびたび更新されてきました。そしてそれは単なる経済活動の手段としてだけではなく、社会や文化、技術の変化を映し出す存在でもありました。明治時代に発行されたものには日本の近代化を象徴するデザイン、戦後の復興期には復興や平和、繁栄を願うメッセージが込められたデザインが施されるなど、その後も時代の変化に合わせて進化してきたのです。
今回の新紙幣も例外ではありません。
〈千代田区大手町の常盤橋公園にある渋沢栄一像〉
一万円札の肖像として採用された渋沢栄一は、「日本資本主義の父」とも呼ばれ、明治から大正時代にかけて約500もの企業や教育機関の創設を支援するなど実業界で大活躍した人物です。彼が推進した「社会的責任を持つ資本主義」の理念は、現代の企業や経済の在り方にも通じる重要な考え方といえ、日本の未来への希望を託した象徴のように感じる方も多くいらっしゃるでしょう。
〈津田塾大学正門〉
五千円札に描かれている津田梅子は、女性教育の先駆者としてジェンダー平等や多様性の考え方を世に広めた貢献者のひとりです。津田塾大学の創設者であり、多くの女性が学ぶ機会を得るきっかけを作った彼女の姿は、女性の社会進出が当たり前になりつつある現代において、ジェンダー平等や教育の重要性を訴える象徴として新紙幣にふさわしいものと思われます。
〈北里研究所・北里大学〉
そして千円札に選ばれた北里柴三郎は、医学の分野で世界的に有名な研究者であり、特に破傷風やペストなどに代表される感染症の治療法に多大な貢献をしました。彼の業績は現代の医療や科学技術の礎を築いたものとして評価されています。コロナ禍を経て、健康や命を守る医療と科学の重要性が改めて再認識された現代社会において、彼の肖像が紙幣に描かれることは非常に興味深いものです。「未来の医療をどう支えていくべきか」という問いを投げかけているようにも感じます。
紙幣刷新はなぜ必要?
紙幣は破れたりすることがない限り何十年もそのまま使えそうなイメージがあるかもしれません。ですが実際には、約20年ごとに今回のような刷新が行われるのが一般的です。では、なぜこのような変更が定期的に行われるのでしょうか?
その主な理由のひとつとして「偽造防止」が挙げられます。
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〈“ストライプ型”の3Dホログラム〉 | 〈高精細すき入れ〉 |
近年、偽造技術が進化する一方で、それを防ぐための印刷技術や素材も大きく進歩してきました。今回の新紙幣には、“ストライプ型”と呼ばれる肖像が回転する最先端技術の3Dホログラムや、より緻密な画線で構成される最新の透かし技術などが導入されています。また、インキを高く盛り上げる“凹版印刷(おうはんいんさつ)”の精度も向上しており、触った感覚や光の当たり具合で本物かどうかを直感的に確認できる工夫が施されています。新しい紙幣は高度な偽造防止技術を採用することで偽造を防ぎ、より高い信頼性を確保することで社会全体の信用を守る役割を果たしているのです。
また、紙幣に一定の「寿命」があることも、紙幣刷新の大きな理由の一つです。
流通している紙幣が古くなると、管理するためのコストや交換の手間が増大します。そのため、一定期間ごとに紙幣を刷新し、新しい技術やデザインを取り入れることで流通の効率性を保つことを目指しているのです。
紙幣変更がもたらす経済的なメリット・デメリット
新しい紙幣が登場すると、その製造や関連機器の更新、広報活動などを通じて経済的な波及効果が生まれます。
紙幣の製造には先ほども触れたような特殊な技術や素材が必要不可欠です。そのため、紙幣の印刷を担う業界や紙幣の材料を供給する企業にとっては大きな需要が発生します。
また、ATMや自動販売機、両替機なども新紙幣に対応するためのアップデートが必要です。このような機器の改修やシステム開発に関連する産業も活性化します。
さらに、紙幣の変更は、海外からの注目を集める機会でもあります。特に観光業界では、新紙幣が話題となることで外国人観光客の関心を惹き、日本の文化や歴史を紹介する絶好のタイミングとなります。新紙幣の流通は、国内外での経済活動を刺激する一因となりえるものといえそうです。
一方で、上記の波及効果を裏返せば、紙幣変更によってコストがかかる立場の人も多くいるといえるでしょう。そもそも、国の財政にとって、新紙幣の設計、印刷、流通にかかる費用は大きな負担となります。
また、新紙幣に対応するために行うATMや自動販売機などの機器の更新は、いうまでもなく企業にとって追加のコストです。特に中小企業にとっては、このようなコストが大きな負担になることも考えられます。
さらに、紙幣変更に伴う広範な機器の更新やシステムの改修には時間がかかるため、その間の業務効率が低下する可能性もあります。例えば、銀行や金融機関では、新紙幣に対応するためのシステムテストやトレーニングが必要となります。
紙幣変更は経済に与えるインパクトが大きいため、そのメリットとデメリットを十分に理解して適切に対応することが重要といえそうです。
私たちの生活への影響
新しい紙幣が流通することで、私たちの日常生活にも様々な影響があると考えられます。
たとえば、新しいデザインになれるまでの間、ついつい「これ、本物?」と確認してしまうかもしれません。また、古い紙幣との入れ替えが進むなかで、財布の中に混在する新旧のお札を見るとノスタルジーを感じる方もいるでしょう。
紙幣変更は、子どもたちにとっても興味深い話題です。学校の授業や各家庭で「このお札に描かれている人はどんな人?」と話す機会が増えることも考えられます。紙幣を通じて、歴史や文化について考えるきっかけが増えることは、意外なメリットかもしれません。
さらに、デジタル決済が進む現代でも、実物のお札にはやはり「手に取れる安心感」があります。新紙幣はその存在感を改めて私たちに感じさせ、キャッシュレスと現金の共存を考えるヒントになるでしょう。
最後に
紙幣は、私たちの生活を支えるだけでなく、その背景にある技術や文化、経済の動きまで映し出す「時代の鏡」です。今回の新紙幣には、技術的な進化とともに日本の多様性や文化、そして未来への期待など、さまざまな意味が込められています。
次に新しいお札を手に取ったとき、その意味を少しだけ考えてみてください。デザインや使用された技術に込められたメッセージやそこに至る背景などを知ることで、日常にある「お金」という存在が、もっと特別なものに思えてくるかもしれません。
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