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FPシリーズ(15):20歳~40歳代が知るべき雇用保険の給付内容とは?

2022/10/28

知恵のハコ

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皆さんは「イザというときのために、生活費の3カ月分は貯金しておいた方が良い。」ということをお聞きになったことはありますか? この「3カ月分」の根拠としては、自発的に失業した場合には、雇用保険の基本手当(いわゆる「失業保険」)を受給するまでに、公共職業安定所(ハローワーク)で求職の申し込みをしてから、待期期間(7日間)に加えて給付制限期間(3カ月間*)があるため、基本手当が支給されない間の生活費を賄うためだと思われます。

*5年以内に2回までは2カ月間。

私もファイナンシャル・プランナーの勉強をするまでは「そういうものなのかなぁ」と何も考えずに生活費の3カ月分程度を普通預金にプールしておくようにしていましたが、今ではそのお金をもっと有効に活用できたのではないかと思っています。
なぜなら、自発的に退職するのであれば事前にそのタイミングは分かっているので準備できるわけですし、非自発的失業の場合でも4週間後には基本手当の支給が開始されるからです。

そこで、今回から雇用保険について解説していきます。雇用保険は年齢別に定められている制度ではありませんが、当シリーズでは2つの年代に分けて、それぞれの年代に知っておきたい給付を中心にご紹介します。
今回は20歳~40歳代の方々向けの内容になります。

雇用保険制度の全体像

では、雇用保険の全体像についてお話をしていくことにしましょう。

雇用保険には、下表のように主たる事業として「失業等給付」と「育児休業給付」があり、付帯事業として「雇用保険二事業(雇用安定事業、能力開発事業)」があります。
ここでは失業等給付と育児休業給付を中心にまとめています。

【雇用保険の給付】

失業等給付 (1)求職者給付 基本手当
技能習得手当 受講手当
通所手当
寄宿手当
傷病手当
高年齢求職者給付金
特例一時金
日雇労働求職者給付金
(2)就職促進給付 就業促進手当 就業手当
再就職手当
就業促進定着手当
常用就職支度手当
移転費
求職活動支援費 広域求職活動費
短期訓練受講費
求職活動関係役務利用費
(3)教育訓練給付 教育訓練給付金 一般教育訓練給付金
特定一般教育訓練給付金
専門実践教育訓練給付金
教育訓練支援給付金
(4)雇用継続給付 高年齢雇用継続給付 高年齢雇用継続基本給付金
高年齢再就職給付金
介護休業給付 介護休業給付金
育児休業給付 育児休業給付金

まず、失業等給付の各々について簡単に説明することにしましょう。

(1)求職者給付

求職者給付は、会社員が失業した場合にその者に生活費等を支給するものです。
いわゆる失業保険というもので、一般の会社員(65歳未満の一般被保険者)に支給されるのが「基本手当」、65歳以上の高年齢被保険者には「高年齢求職者給付金」、季節的に雇用される短期雇用特例被保険者には「特例一時金」、日々雇用される日雇労働被保険者には「日雇労働求職者給付金」が支給されます。
また、一般被保険者が一定の条件を満たすと、基本手当に加えて「受講手当」や「通所手当」、「寄宿手当」が支給され、病気になった時には基本手当に代えて「傷病手当」が支給されます。

(2)就職促進給付

就職促進給付は、会社員が失業した場合に再就職の支援を目的に支給するものです。
失業中の人がアルバイトなどをした場合に基本手当の代わりに基本手当日額の3割が支給される「就業手当」、再就職した人に基本手当の残日数に応じて6割(あるいは7割)を支給する「再就職手当」、再就職手当を支給された人が半年以上働いたら4割(あるいは3割)が支給される「就業促進定着手当」、就職困難者が常用タイプの再就職をした場合に基本手当日額の18~36日分が支給される「常用就職支度手当」などがあり、早期の再就職に対するインセンティブとなっています。

(3)教育訓練給付

教育訓練給付は、会社員の主体的な能力開発を促進するために支給するものです。
専門学校などで指定教育訓練を受けた場合に受講費の2割が支給される「一般教育訓練給付金」、4割が支給される「特定一般教育訓練給付金」、最大で7割が支給される「専門実践教育訓練給付金」などがあります。

(4)雇用継続給付

雇用継続給付は、高齢者の雇用の継続を目的に支給するものです。
60歳以降に賃金が大幅に低下した時に支給される「高年齢雇用継続基本給付金」、60歳以降に再就職して離職前に比べて賃金が大幅に低下した時に支給される「高年齢再就職給付金」があります。
また、家族を介護している人に、通算93日まで賃金の67%が支給される「介護休業給付金」があります。

雇用保険料は誰が負担しているの?

給付の全体像が分かったところで、保険料の話をしたいと思います。 FPシリーズ(1)では、給与明細の話をしていますが、雇用保険の保険料(雇用保険二事業分を除く)は労使が折半で負担することになっています。 保険料率については、業種によって下記の通り3段階に分かれています。

雇用保険率(2022年10月~2023年3月)

  雇用保険率(%)        
  従業員負担(%) 会社負担(%)    
    失業等給付分 雇用保険二事業分
一般事業 1.35 0.5 0.85 0.5 0.35
農林水産業等 1.55 0.6 0.95 0.6 0.35
建設業 1.65 0.6 1.05 0.6 0.45

雇用保険料率は毎年度見直しが行われていますが、昨今の雇用保険財政のひっ迫によって2022年度については2回に分けて引き上げられました。2022年10月から2023年3月までは上記の料率となっており、会社員の人は毎月、給料に対して赤字の率が控除されています。

20歳~40歳代が関係しそうな雇用保険とは?

雇用保険の全体像と保険料などが分かったところで、20歳から40歳代の会社員が受給することがありそうな給付を紹介しましょう。 これから説明するのは、求職者給付(基本手当)と教育訓練給付、育児休業給付となります。

(1)求職者給付(基本手当)

前述したように、基本手当は会社員が失業した場合に生活費等を支給するものですから、その基準となる基本手当日額は、離職前6カ月間の給与(ボーナス等は除く)を基準に計算した賃金日額に、60歳未満であれば金額と年齢に応じて50~80%を掛けた額が支給されます。
つまり、賃金日額が少なければ高い割合を掛け、多い場合はその割合が50%に近づくという仕組みです。さらに、この賃金日額には下限額と上限額が決められていて毎年8月1日に改定されますが、45歳以上60歳未満が最も高く16,710円となっています。
よって、それ以上の給料を毎月もらっている人が失業した場合でも、日額8,355円(=16,710円×50%)の基本手当が上限となります。

では、何日分支給されるかというと、年齢と勤続年数によって定められています。
自己都合で退職した場合は、ハローワークに求職の申し込みをしてから7日間の待期期間があり、その後2カ月間の給付制限期間を経て、その翌日から支給されます。
この場合は年齢に関係なく、勤続年数のみによって10年未満であれば90日、10年以上20年未満は120日、20年以上だと150日となります。

一方、会社の廃業やリストラで退職を余儀なくされた場合や、過重労働、ハラスメント等のやむを得ない理由によって離職した人(「特定受給資格者」という)の場合は、年齢と勤続年数に応じて90日~330日の間で、基本手当が支給されることになります。

また、基本手当を受給できる期間は原則として1年と決まっているため、ハローワークに求職の申し込みを行うのを先延ばしにしていると、所定給付日数分を受給できなくなってしまうことがありますので気をつけて下さい。

実は、この基本手当については2022年に改正が行われています。
従来は会社を退職した後に起業した場合は、就職する意思がないものとして基本手当が支給されませんでしたが、2022年7月からは起業しても3年以内に廃業すると、残りの基本手当を受給できるようになりました。
つまり、起業の時点で、原則1年間とされている受給期間の進行を停止させるということです。
これは、政府が掲げているスタートアップ企業を増やすために、起業にチャレンジしやすくするための環境整備の一環と言われています。

【基本手当のイメージ】

基本手当のイメージ

(2)教育訓練給付

教育訓練給付は、職業能力開発のために主体的な取り組みを行う人に援助をするもので、厚生労働大臣が指定する専門学校等の受講料等の一部が支給されるものです。
教育訓練給付金は年々拡充されて今では4つの制度があり、それらを比較すると下記のようになります。

【教育訓練給付金の比較】

  一般教育訓練 特定一般教育訓練 専門実践教育訓練 長期専門実践教育訓練
支給割合 20%*1 40% 50%*2 50%*2
支給上限額 10万円 20万円 年間40万円
(総額120万円)
年間40万円
(総額160万円)
支給要件期間*3 3年以上
(初めての場合は1年以上)
3年以上
(初めての場合は2年以上)
主な対象 国家資格・民間資格の取得を目的とする講座等。 看護師、理容師、保健師、保育士、調理師、栄養士等の資格取得を目的とする教育訓練。

*1 キャリアコンサルティングを受けた場合はそれに掛かった費用(上限2万円)が上乗せされる。

*2 教育訓練修了後1年以内に資格を取得し、雇用された場合は70%に増額される。

*3 前回の教育訓練を修了してからの期間。

大型書店などに行くと、ラックに専門学校のパンフレットが置いてありますが、表紙に「教育訓練給付制度対象」と書いてあったりしますので、一般教育訓練についてはご存じの方も多いのではないかと思います。
また、この教育訓練給付金は失業していなくても受けられる制度ですので、会社員が自己啓発のために利用しているケースも多いようです。

一方で、専門実践教育訓練は働きながら資格取得を目指すものではなく、若い人がキャリアチェンジをする際に利用されるものです。 専門実践教育訓練を受給している場合は失業しているケースも多く、その場合には教育訓練支援給付金という基本手当の80%が支給される制度もあります。

(3)育児休業給付

育児休業給付金は、子を養育するために休業をした場合に賃金の一部を支給するものです。 以前は介護休業給付金と同じように雇用継続給付に分類されていましたが、給付金額が増加したため、失業等給付から独立して管理されるようになりました。
FPシリーズ(12)でも育児休業給付金について紹介していますが、育児・介護休業法が改正されて2022年10月より「産後パパ育休」が導入されましたので、今回はそのあたりを説明したいと思います。

【育児休業のイメージ】

育児休業のイメージ

産後パパ育休は、子の出生後8週間以内に4週間まで、2回に分割して取得ができるようになりましたので、出産直後に加えて奥さまのサポートが必要なタイミングに合わせて、男性が育児休業を柔軟に取得できるようになりました。
また、通常の奥さまの育児休業も2回に分けて取得できるようになりましたので、奥さまとご主人が交代で育児休業を取得することが可能となり、奥さまがスムーズに復職できるようになると思われます。

ちなみに、健康保険料や厚生年金保険料の免除要件は若干変更されましたが、子どもが保育園などに入園できない場合に育児休業を2歳まで延長できることや、育児休業給付金の金額等については、変更はありません。

いかがでしたでしょうか?

1947年(昭和22年)に制定された失業保険法が1975年(昭和50年)に廃止され、代わって雇用保険法が制定され、失業のみならず育児や介護による離職を防ぐための雇用維持も目的に加えられるなど、拡充されてきました。
また、2020年のコロナ禍においては、従業員の雇用を維持した事業主に助成する雇用調整助成金や産業雇用安定助成金等によって雇用が維持された方も多くいるのではないかと思います。

次回は「50歳~60歳代に知っていただきたい雇用保険」として、高年齢求職者給付金や雇用継続給付等の制度についてご紹介したいと思いますので、是非ともご期待ください。

執筆:1級ファイナンシャル・プランニング技能士/1級DCプランナー 花村 泰廣

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