実際の手口から学ぶ、投資詐欺を回避し健全な資産運用をするには?
2020/05/01

世界的な低金利環境の中、投資による資産形成の有効性が高まる環境にあると考えられます。ただし、投資はそのリスクに見合ったリターンを享受できるのか、十分に吟味して選択する必要があると思います。昨今では、投資初心者などにうまい話を持ち掛けて大事なお金を搾取する投資詐欺の横行が社会問題化していることから、その手口など現状を確認することを通じて自分なりの投資判断の基準を設けてみてはいかがでしょう。
過去最大規模の投資詐欺であるバーナード・マドフ事件はポンジ・スキームという仕組みのもの
アメリカで実際に起きたバーナード・マドフ事件をご存じでしょうか。この投資詐欺はマドフ証券の創業者のバーナード・マドフが主犯で25年にわたって続けられ、その被害総額は650億米ドル(日本円で約6兆円)だったとも言われています。ナスダックの創業者でもあるバーナード・マドフの信用力や運用力は非常に高かったことから、その被害者には映画監督のスティーブン・スピルバーグなどの著名人や大手の金融機関も含まれていました。そして、その仕組みは“ポンジ・スキーム”と呼ばれるもので、確実に高いリターンを上げられる投資として資金を集め、実際は投資を行わず出資者の資金から高い配当を捻出することを繰り返すことで評判を高め、その後も資金を集めるといった仕組みのものです。それが投資詐欺として発覚したのは、サブプライムローン問題による株価大幅下落など運用環境悪化に伴う顧客からの解約請求に応えられなくなったことがきっかけとなりました。自転車操業のようなこの仕組みはついに隠し通せなくなり、その後、証券取引委員会の調査後にバーナード・マドフは逮捕され、150年の懲役刑を受けることになりました。
日本ではAIJ投資顧問による損失隠しが年金消失問題に発展
日本では、2012年2月に証券取引等監視委員会の検査により、AIJ投資顧問が顧客から預かっていた年金資産の運用に失敗していたのにもかかわらず、虚偽の報告書を顧客と当局に提出していたという事実が明らかになりました。その後、同社の社長は詐欺と金融商品取引法違反の罪に問われ、懲役15年が言い渡されました。回収済みの年金資産は85億円にとどまり、それは運用資産(2012年3月末時点、1,458億円)のたったの約6%でした。1,300億円以上が消失し、その該当する年金基金の加入者は、見込んでいた年金を受給できない事態に陥り、年金運用を運用機関に委託している企業年金と金融業界全体に衝撃を与えました。その後、金融庁はAIJのような投資顧問業者の営業を監視するため、資産を管理する信託銀行の規制を強化し、基金側の助言役として被害を防ぐような正しい情報を調査し、基金に知らせることを義務付けました。
日本の投資関連の被害規模は依然大きく、改善が求められる状況
警察庁が公表する生活経済事犯の検挙状況の資料によると、その中の利殖勧誘事犯(出資法違反(預り金の禁止等)、金融商品取引法違反、無限連鎖講の防止に関する法律違反等に係る事犯で詐欺に該当するものも含まれる)は、2019年の検挙数が過去5年でみると高水準となっています。また、特に、2019年の被害人員は84,150人と多数で、被害金額は約1,038億円と莫大な金額となっており、被害を回避する努力が求められる状況と考えられます。
【日本の利殖勧誘事犯の検挙状況】 |
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2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | |
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検挙事件数(件) | 37 | 24 | 43 | 41 | 41 |
検挙人員(人) | 116 | 87 | 115 | 123 | 176 |
検挙法人数(法人) | 10 | 5 | 7 | 9 | 5 |
被害人員(人) | 4,401 | 45,868 | 4,503 | 5,695 | 84,150 |
被害額(億円) | 93 | 389 | 217 | 330 | 1,038 |
※期間:2015年~2019年(年次)
出所:警察庁の資料をもとにアセットマネジメントOne作成
さらに、2019年の被害金額の中では、集団投資スキームのファンドに関するものが大きな比率を占めている状況です。
【利殖勧誘事犯の被害金額の投資対象別内訳】
※2019年時点
出所:警察庁の資料をもとにアセットマネジメントOne作成
また、検挙事例として次のものが挙げられています。
①海外事業に成功している投資コンサルタント会社へ出資すれば月利2~4%の配当と1年後の元本保証を約束する旨の嘘を言って、全国の約1万3,000人から約459億円をだまし取るなど詐欺および出資法違反。
②「東証マザーズに上場申請する。」「サービス付き高齢者住宅事業を開始する。」などの嘘を言い、健康食品会社の社債販売名目で8県の約500人から約15億円をだまし取るなどした出資法違反および詐欺事件。
③架空の投資プロジェクトへの参加費名目で金銭をだまし取ろうと考え、資産家になりすました男が、「私の活動に賛同し海外口座を開設すれば、私がトレードする。毎月10万円を私からあなたへ贈ることができる。」などの嘘を言って勧誘。また、参加者役の演者が実際に10万円を受け取っていると嘘を言う動画をネット配信し、全国の約6,800人から約9億円をだまし取った詐欺事件。
確実に高利回りを得られる投資はないと認識すべき
一般的に利回り(リターン)が高くなるものには、相応のリスクが伴うと考えられます。投資の世界に絶対儲かる仕組みのものはないと考えるべきです。また、投資詐欺の手口には、有名企業や著名人の名前を挙げて勧誘するものが多くみられ、「大手有名企業だから安心」とか「みんなやっているから大丈夫」という油断を持たない方が良いかと思います。
投資対象を考える基準として以下のことを認識してはいかがでしょう。
① 絶対こうなると良いことばかり言って勧誘していないか。
② リスクをきちんと明示しているか。
③ 投資の実体が示されるものなどを確認することができるか。
信頼できる知人・友人に加えて、投資相談できる公的機関の利用を検討しては
投資に迷ったら、信頼できる知人・友人に相談するのも良いかと思います。また、金融庁や消費者庁などの相談センターに相談することも有益となるでしょう。ちなみに、金融庁の金融サービス利用相談室への相談は、多数でその内容も多岐にわたっています、どんなことでも気になったことは臆せず連絡をとって相談してみてください。このように、投資は適切な勧誘・提案が出来ているかという点も重視して行うべきで、元本回収と期待されるリターンの享受がどの程度の確率で出来るかを考えるなど相応のコストが必要です。そして、その投資プロセスが中長期的に健全な資産運用につながるものと思います。
【金融サービス利用者相談室(金融庁)への相談等の受付件数】 |
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2018年10-12月 | 2019年1-3月 | 2019年4-6月 | 2019年7-9月 | |
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個別取引・契約における顧客説明 | 77 | 6 | 32 | 27 |
個別取引・契約の結果 | 656 | 645 | 618 | 704 |
不適正な行為 | 9 | 6 | 29 | 14 |
業者の態勢・各種事務手続 | 200 | 180 | 157 | 207 |
一般的な照会・質問 | 873 | 761 | 781 | 772 |
行政に対する要望等 | 447 | 332 | 462 | 447 |
その他 | 52 | 69 | 85 | 63 |
計 | 2,264 | 1,999 | 2,164 | 2,234 |
※2018年10-12月期~2019年7-9月期(四半期毎)
出所:一般社団法人投資信託協会の資料をもとにアセットマネジメントOne作成
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