サーモンだけじゃない!ノルウェーの歴史や文化、経済情報をお届け
2023/01/20

北欧の国「ノルウェー」についてどんなことを知っていますか?筆者が初めてノルウェー人と話した時には、“首都オスロとノルウェーサーモン”くらいしかすぐには思いつきませんでした。しかし、ノルウェーは、日本と密接な関係があります。日本とノルウェーは、魚を食べ、皇室・王室があり、清潔で時間が正確、比較的治安が良いことなどから、気質など似ているなと筆者は勝手に思っています。面積は日本とほぼ同じながら、人口は少なく、兵庫県くらい、または、横浜市と川崎市を足したほどの北欧のこの国には、運用資産が世界最大規模を誇るノルウェー政府系ファンドがあります。そんな、大きな国の側面も持つノルウェーをご紹介します。
ノルウェーの基本情報
ノルウェー王国 | 日本 | |
人口 | 542.1万人(2021年) | 1億2,592万人(2022年) |
面積 | 38.6万㎢ (国土の約40%が森林) | 37.79万㎢ |
政体 | 立憲君主制 | 立憲君主制 |
主要産業 | 石油・ガス生産業、アルミニウム、シリコン、化学肥料等加工産業、水産業 | 製造業、サービス業 |
通貨 | ノルウェークローネ(NOK) 1NOK=13.37円(2022年12月末現在) |
円 |
GDP | 4,821億ドル(2021年) | 4兆9,325億ドル(2021年) |
出所:外務省、総務省、ジェトロ、IMF “World Economic Outlook”、ブルームバーグ
ノルウェーの歴史と文化
ノルウェーは、日本との長い外交の歴史があります。1905年にスウェーデンから同君連合を解消して独立したときから日本と外交関係を樹立し、2005年にノルウェー独立100周年と日本との国交樹立100周年を記念して、先の天皇皇后両陛下が公式訪問しています。5月17日がノルウェーの建国記念日で、毎年男性も女性も民族衣装を着てノルウェーの旗をもって、パレードをしたりしてお祝いをします。女性の民族衣装はゆったりフレアのあるドレスに白のブラウスにベストのようなものを重ねフリンジなどで飾ります。地域によってデザインが異なったり、色や飾りも色々ありとてもかわいいです。筆者も実際に見たことがありますが、結婚式に着る人も多く、会場はとても華やかでした。
ノルウェーは、冬のスポーツ、特にスキーのジャンプやアルペン、クロスカントリーが盛んで、冬のオリンピックでは大活躍。1994年にノルウェーで行われたリレハンメルオリンピックで活躍したジャンプの日本人選手の名前を憶えている人もいます。2022年北京オリンピックでは、金メダル16個、総メダル獲得数37個でメダル獲得ランキング1位となり、2位のドイツの27個を大きく引き離しました。夏の東京オリンピック2020でも、陸上400Mハードルでワーホルム選手が世界新記録を出したときには「なんて多才な国だ」と思ったのを憶えています。
経済協定
ヨーロッパには、EU(欧州連合、European Union)の他に、EEA (European Economic Area)やEFTA (欧州自由貿易連合、European Free Trade Association)といった経済協力機構がありますが、ノルウェーはEU加盟国ではありません。EEAとEFTAの加盟国ですが1993年のEUの発足でその経済協力機構の実質的意味はなくなったといわれています。
一方、国境を国境検査なしで越えることを許可する協定のシェンゲン協定には、EU加盟国でも加盟していない国がある中で、ノルウェーは加盟しています。同様の立ち位置(EU加盟国でないがシェンゲン協定加盟国)としては他にスイスが挙げられます。
水産業が盛ん!日本のお寿司業界に革命をもたらす
ノルウェーの地形は東側をスウェーデンと接し、西側は氷河が削ってできたフィヨルドで形成される長い海岸線です。そして、その沖を流れる大西洋海流はノルウェーに豊富な水産資源をもたらしています。特にノルウェー北部のロフォーテン諸島のフィヨルドは稚魚を育てるのに適しており、多くのタラが産卵のため集まります。このため、その沿岸に人間が住み始めたと同時にタラ漁が始まったと言われています。タラはヴァイキング時代には重要な食糧となり、そして中世には重要な輸出産物となりました。今でもタラを含めて水産業は、ノルウェーの重要な産業で、水産物の輸出国として世界第2位(2021年*1)を誇ります。
*1 Food and Agriculture Organization of the United Nations
日本は魚を食べる量が減ってきているといわれていますが、世界的に見ればまだまだ水産物の消費大国で、消費の半分近くを輸入に頼っています。ノルウェーからはサバとサーモンの輸入が突出していて、日本で消費するサバは半分以上、サーモンは21%をノルウェーから輸入しています。
日本でサーモンを生(お寿司)で食べるようになったのはノルウェーがきっかけといわれています。今では多くの人気寿司ネタランキングで第1や2位を誇るサーモンですが、1980年代前半まで鮭は火を通して食べることが普通で、生で食べられていませんでした。しかし、ノルウェーでサーモンの養殖技術が高まり自国では消費しきれなくなったことをきっかけに、日本に輸出する、特に利益の高い寿司用にサーモンを売り込むようになりました。ノルウェーサーモンには、寄生虫がなく安全であることを地道に伝えたこと、太平洋産の鮭を「鮭」、大西洋産の鮭を「サーモン」と呼んで区別し、新しい概念を生み出し差別化を働きかけたことで普及していったそうです。
資源国ノルウェー~水資源と石油と天然ガス~
ノルウェーは、資源国としても知られています。国の中央に位置する山間部の水力を利用した豊富な電力資源を活用して、生産に電力消費量が多いアルミニウムなどの非鉄金属工業や化学工業などもノルウェーの主力産業です。また北海で採掘する石油や天然ガスも国に利益をもたらしています。実は、ノルウェー国内の電力はほぼ水力発電で賄っていて、石油や天然ガスは輸出して利益を得ています。
世界最大規模を誇るノルウェー政府系ファンド
この石油収入を定期的に組み入れる「ノルウェー政府年金基金グローバル (the Government Pension Fund Global (GPFG)」が、1990年に設立されました。2006年に改称されるまで、「石油基金」と呼ばれていました。よくニュース記事では「ノルウェー政府系ファンド」といわれ、運用資産規模は11,657billion NOK(160兆円、1NOK=13.78円*2、2022年6月末)で世界最大規模を誇ります。ちなみに世界最大は、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)です。
*2 ブルームバーグ
この基金は、ノルウェー国民のために財務省が所有し、石油価格が下落した場合やノルウェー経済が収縮した場合に財政政策を調整できる余地を残すために設立され、国の高齢化や石油収入が将来減少することに備えて長期投資を行っています。年金基金と名前がついていますが、年金のために拠出したことは今までになく、いつ基金を使うかなどまだ決まっていないそうです。
運用は、財務省が定めた指針に従って、ノルウェー中央銀行投資管理部門(NBIM)が国外の株式、債券、リートなど様々な資産に分散投資しています。投資先は”責任ある投資”として、基金の投資対象企業の監視・除外指針があり、基本的人道主義に反する兵器などを製造する企業には投資しないことなどが含まれ、倫理委員会を設け投資が倫理指針に沿っているかどうかの評価を行っています。倫理委員会の「年次報告書2021」を見ると、人権や、戦争、環境、気候変動などの課題にも考慮していることがうかがえます。当基金は世界最大の資産規模のため、例えばある企業を人権に関する懸念から投資除外にすると発表されれば、それがニュースで大きく取り上げられるなど、当基金の投資姿勢が世界へ大きな影響力を持っていることがうかがえます。
ノルウェー人の年金と資産運用
ノルウェーには、どんなに小さな会社、それが小さな書店などのお店であっても、雇い主は従業員に対して最低でも給料の2%分を従業員の年金として払う義務があります。公的年金もあり、受給の条件などがありますが、日本と同じ賦課方式で無年金者に対し、最低補償年金の措置があります。また、将来の高齢社会における安定的な財政運営のために一部積立て運用されています。友人に、その年金だけで将来は不安がないのか、また、資産運用はどうしているのか聞くと、「稼いでいる人はやっている、もう少し豊かな暮らしをしたかったら投資をする」といった反応で、今の年金制度を信頼している様子がうかがえました。
筆者は南北に長いノルウェーのちょうど中間ほどにある第3の都市トロンヘイムを訪れたことがあります。人口は21万人(2022年)で、日本の大都市に比べたら小さい都市なのですが、フィヨルドの入り組んだ地形にギュッと色々なものが詰まっている印象です。大きなショッピングモール、たくさんのパブやカフェ、レストラン、王様の戴冠式を行う教会、チャンピオンズリーグに行くようなサッカーチーム。夏には音楽フェスも行われています。何でもそろっていて、ついついお金を使いすぎてしまったくらいです。暖かいメキシコ湾流のおかげで高緯度のわりに温暖とはいえ、冬にはマイナス10℃や15℃になるので、住宅の作りもしっかりしています。
ノルウェーの年金支給額は公表されているので調べればわかり、その額が生活に足りるか足りないかは、人それぞれと思われます。しかし、現地のノルウェー人の生活ぶりをみると、年金への信頼感は高く、その信頼に裏付けられた将来の安定した生活ビジョンがあるため、今もお金をしっかり使って経済を回している印象があります。
今も、将来も豊かな生活を。そんなノルウェーから日本が学ぶべきことは数多くあると筆者は考えます。
出所:外務省、総務省、駐日ノルウェー大使館、Government Pension Fund Global、 Norwegian Tax Administration、Statistic Norwayの資料をもとにアセットマネジメントOne作成
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