生命保険加入時に知っておきたい社会保障の話
2018/11/05
多くの方が、なにがしかの病気やケガに対するリスクに備えるために、生命保険に加入していると思います。生活保障に関する調査では、多くの方が公的な保障だけではいざという時にまかなえないと考えている結果となりました。そこで公的な保障について調べ、生命保険の必要性について考えてみることにします。
世帯加入状況(個人年金保険を含む) | |
全生保 | |
---|---|
加入率 | 89.2% |
加入件数 | 3.8件 |
普通死亡保険金額 | 2,423万円 |
年間払込保険料 | 38.5万円 |
(出所:生命保険文化センター 生命保険に関する全国実態調査 平成27年度) |
「病気、ケガ、老後に対して公的な保障だけでまかなえるか」 | |||||
まったくそう思う | まあそう思う | わからない | あまりそうは思わない | まったくそうは思わない | |
---|---|---|---|---|---|
公的医療保険 | 7.9% | 36.9% | 3.8% | 34.4% | 17.0% |
公的年金 | 3.1% | 14.5% | 2.5% | 40.0% | 40.0% |
公的死亡保障 | 3.9% | 18.6% | 7.5% | 34.9% | 35.1% |
公的介護保険 | 1.9% | 8.6% | 6.8% | 38.7% | 44.1% |
(出所:生命保険文化センター 生活保障に関する調査 平成28年度 18~69歳の男女個人) |
1 色々そろっている公的な保障(社会保障制度)
公的な保障(社会保障制度)には、国民の安心や生活の安定を支えるセーフティネットとして、社会保険、社会福祉、公的扶助、保健医療・公衆衛生があります。
公的な保障一覧 | ||
社会保障制度 | ||
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社会保険 | 医療保険 | |
年金保険 | 老齢年金 障害年金 遺族年金 |
|
介護保険 | ||
雇用保険 | ||
労災保険 | ||
社会福祉 | ||
公的扶助 | ||
保健医療・公衆衛生 |
- 社会保険
社会保険は、私たちが病気、ケガ、出産、死亡、老齢、障害、失業など生活の困難をもたらすいろいろな事故(保険事故)に遭遇した場合に一定の給付を行い、その生活の安定を図ることを目的とした保険制度です。社会保険には、医療保険、年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険の5つがあります。民間保険との違いとしては、社会保険は強制加入です。保険料は所得によって変わりますが、健康状態や職業の危険度に応じては変わりません。また、公的医療保険や公的介護保険などは保険料負担額で給付額が変わるということはありません。これに対し、民間の保険は任意加入です。保険金額は、保険契約者が負担する保険料に応じて変わってきます。保険料は、被保険者に保険事故が起こるであろう、危険度合いに応じて変わり、危険度合いが一定以上大きいと加入を断ることもあります。つまり、持病などがあると、保険金を受け取る確率が高まるので、保険料を高くするか、保険の加入自体断るのです。さて5つの社会保険をみてみましょう。
1. 医療保険
医療保険には、健康保険、国民健康保険、船員保険、共済組合があり、会社員などが加入する健康保険と、自営業者などが加入する国民健康保険で保障内容が異なります。民間の生命保険や医療保険商品を選ぶ際には、保障内容の違いを考慮する必要があります。医療保険は、高額の療養費による困窮の予防を目的としています。そのため、長期の入院や高額な治療費が、被保険者の負担とならないように、一定の金額(自己負担限度額)を超えた部分が支給される高額療養費制度があります。一方で、医療費が膨らみすぎて、保険者の財源が圧迫されないように被保険者の自己負担割合が定められています。その他に、仕事を休んだ期間の生活費を保証する傷病手当金(国民健康保険は対象外)、出産育児一時金、出産手当金(国民健康保険は対象外)、ご本人・ご家族が亡くなったときの埋葬料または埋葬費などが支給されます。2. 年金保険
公的年金制度には、国民年金、厚生年金などがあり、日本国内に住所のあるすべての方が加入を義務づけられています。その方の働き方により加入する年金制度が決まっています。国民年金は日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての方、厚生年金は厚生年金保険の適用を受ける会社に勤務する方や公務員などになります。どちらも、老齢給付、障害給付、遺族給付の機能を持っています。
- 老齢年金
老齢年金には、老齢基礎年金と老齢厚生年金があります。老齢基礎年金は原則として65歳から支給されます。(平成30年4月分からの年金額は満額で779,300円になります。)老齢厚生年金は、厚生年金の被保険者期間があって、老齢基礎年金を受けるのに必要な資格期間を満たした方が60~65歳(生年月日に応じて段階的に引き上げられます。)になったときに、老齢基礎年金に上乗せして支給されます。 - 障害年金
障害年金は、病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の方も含めて受け取ることができる年金です。障害年金には障害基礎年金、障害厚生年金があります。障害基礎年金は、国民年金に加入している間、または20歳前(年金制度に加入していない期間)、もしくは60歳以上65歳未満にある病気やケガで、法令により定められた障害等級(1級・2級)による障害の状態にあるときに支給されます。障害厚生年金は厚生年金に加入している間に、病気やケガで障害等級(1級・2級)に該当する障害の状態になったとき、障害基礎年金に上乗せして支給され、3級の場合でも障害厚生年金は支給されます。なお、初診日から5年以内に病気やケガが治り、障害厚生年金を受けるよりも軽い障害が残ったときには障害手当金(一時金)が支給されます。 - 遺族年金
遺族年金は、国民年金または厚生年金保険の被保険者または被保険者であった方が、亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた遺族が受けることができる年金です。被保険者の受給資格期間が25年以上あることが必要です。遺族年金には、遺族基礎年金、遺族厚生年金があり、亡くなった方の年金の納付状況などによって、いずれかまたは両方の年金が支給されます。遺族年金を受け取るには、亡くなった方の年金の納付状況・遺族年金を受け取る方の年齢・優先順位などの条件が設けられています。
3. 介護保険
公的介護保険は40歳以上の方が全員加入して介護保険料を納め、介護が必要になった時に所定の介護サービスが受けられる保険です。(40~64歳の方は、加齢に起因する特定の病気(16疾患)によって要介護状態になった場合に限ります。)要介護者の家族を介護負担から開放し、社会全体の労働力と財源で介護しようとする目的があります。また本人や家族の所得・財産にかかわらず必要な介護サービスを十分に受けられるようにする狙いもあります。身体の状態の程度に応じて要支援1~2・要介護1~5の区分に分かれており、それに合わせて介護サービスの支給限度額が設定されます。かかった費用のうち1割から3割(所得に応じて異なります。)を自己負担することになり、区分支給限度額を超えてサービスを受ける場合、超えた分は全額自己負担になります。(厚労省による平成25年度介護給付費実態調査によると、区分支給限度額を超えて利用している方の割合は2.9%であり、多くの方が限度額の範囲内で利用しています。)また区分支給限度額の範囲内の自己負担額が高額介護サービス費における限度額(所得に応じて異なります)を超えた場合、高額介護サービス費が支給されます。4. 雇用保険
労働者が、失業した場合や職業に関する教育訓練を受けた場合、生活や雇用の安定と就職の促進のために失業等給付の支給が行われます。5. 労災保険
労働者が、業務上の事由や通勤によって負傷したり、病気に見舞われたり、あるいは不幸にも死亡した場合に、被災労働者や遺族を保護するために必要な保険給付が行われます。また、社会復帰等を図るための事業も行われています。6. その他
高額医療合算介護サービス費、高額介護合算療養費の制度などがあります。健康保険の高額療養費と介護保険の高額介護サービス費で還付を受けた上で、なお1年間(8月から翌年7月)の医療保険と介護保険の自己負担額を合算した額から世帯の負担限度額(年齢、世帯の所得により異なります。)を差し引いた金額を、医療保険に係る部分については高額介護合算療養費として、介護保険に係る部分については高額医療合算介護サービス費として支給されます。 - 老齢年金
- 社会福祉
障がい者、母子家庭などの方が安心して社会生活が送れるよう、公的な支援を行う制度です。高齢者、障がい者等が円滑に社会生活を送ることができるよう、在宅サービス、施設サービスを提供する社会福祉、児童の健全育成や子育てを支援する児童福祉などがあります。 - 公的扶助
生活に困窮する方に対して、最低限度の生活を保障し、自立を助けようとする制度です。健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する生活保護制度などがあります。 - 保健医療・公衆衛生
国民が健康に生活できるよう様々な事項についての予防、衛生のための制度です。医師その他の医療従事者や病院などが提供する医療サービス、疾病予防や健康づくりなどの保健事業、母性の健康を保持、増進するとともに、心身ともに健全な児童の出生と育成を増進するための母子保健、食品や医薬品の安全性を確保する公衆衛生などがあります。
2 公的な保障により受け取れる金額はどのくらい?
一家の大黒柱の働き手の死亡や、障害が残った時など人生設計が大きく変わってしまったそれぞれのケースについて、受け取れる公的な保障はどのくらいになるのか計算してみます。加入している年金が、国民年金か厚生年金かによって、受給額が異なります。
<死亡>
夫が死亡。妻と子供1人が遺族の場合、遺族が受け取れる遺族年金は?
(2003年4月以降に厚生年金に加入し、夫の年齢30歳、平均標準報酬額 約40万円の場合)
遺族基礎年金として、約100万円/年(779,300円+224,300円(子1人))。
遺族厚生年金として、約50万円/年(400,000円×5.769/1000×300月×0.997×3/4)
よって、厚生年金に加入している会社員の場合、合計約150万円/年となり、夫が自営業の場合は約100万円/年となります。
<障害>
夫が障害等級1級の障がい者に。妻と子供1人が受け取れる障害年金は?
(2003年4月以降に厚生年金に加入し、夫の年齢30歳、平均標準報酬額 約40万円の場合)
障害基礎年金として、約120万円/年(779,300円×1.25+224,300円(子1人))。
障害厚生年金として、約110万円/年(約400,000円×5.769/1000×300月×0.997×1.25+224,300円(配偶者の加給年金額))
よって、厚生年金に加入している会社員の場合、合計約230万円/年となり、夫が自営業の場合は約120万円/年となります。
※その他に、社会福祉の児童扶養手当なども受け取れる場合があります。
児童扶養手当とは、父母が婚姻を解消、父又は母が死亡、父又は母が障害の状態にある児童に対して支給される手当です。月額として子どもが1人の場合は、全部支給42,330円で一部支給9,990円~42,320円になります。(所得に応じて決定)
<病気やケガ>
夫が病気になり一カ月の医療費総額が100万円かかった場合は?
(医療保険加入者が69歳以下で、年収が約370~約770万の場合)
窓口負担は30万円になりますが、高額医療保険制度を利用することにより、自己負担額の上限87,430円を超えた212,570円が支給されます。*入院時の食事負担や差額ベッド代等は含まれません。
自己負担額の上限 | : 80,100円+(100万円―267,000円)×1%=87,430円 |
支給額 | : 30万円―87,430円=212,570円 |
<介護>
要介護5の要介護認定を受けた夫に、月額360,000円の介護費用がかかった場合は?(病名 脳血管疾患、年齢40歳、市町村民税世帯非課税の場合)
まずサービス事業者に対して36,000円/月(1割負担)を支払います。
利用できる在宅サービスの目安としては、下記のサービスなどがあります。
- 週5回の訪問介護
- 週2回の訪問看護
- 週1回の通所系サービス
- 毎日2回(早朝・夜間)の夜間対応型訪問介護
- 1カ月に1週間程度の短期入所
- 福祉用具貸与(特殊寝台、エアーマットなど)
高額介護サービス費の申請を行うことにより、自己負担額の上限24,600円/月を超えた11,400円が支給されます。また医療費と介護費用の自己負担の合算金額が年間34万円を超える場合は、高額医療合算介護サービス費、高額介護合算療養費の申請を行うことにより、超えた金額が支給されます。
以上のことから、日本の公的な保障は充実しており、働き手がいざという時に、死亡した場合には遺族年金、障害には障害年金、医療には高額医療保険制度、介護には高額介護サービス費の支給などがあることを理解できたのではないでしょうか
3 ライフステージや家族構成などによって生命保険の重要度が変わる
家族がいるかどうか、また子供の有無、年齢によって、生命保険の必要度が変わってきます。それぞれのケースで、状況を把握してみましょう。
<独身の場合>
生命保険の必要性は高くありません。生命保険の保障は葬儀代程度で、高額な死亡保障は必要ないと考えられます。これからのために、貯蓄に回すことを考える方がいいとされます。
<結婚しているけど、子供はいない場合>
共働きの場合は、独身と同様に生命保険の必要性は高くありません。しかし共働きでない夫婦の場合はどうでしょうか。その場合も残された配偶者は自分1人が生活できるように働けばいいので、生命保険の必要性はあまり高くありません。当面の生活費をまかなえる程度の貯蓄と、それを補える生命保険の保障額があればいいでしょう。
<子供がいる場合>
生命保険の必要性は非常に高くなります。文部科学省の平成28年度子供の学習費調査によると、幼稚園から高等学校までの1人当たりの学習費総額は、全て私立に通った場合では約1,770万円、全て公立に通った場合では約540万円。さらに文部科学省の調査によると、大学の4年間で、公立では入学金と授業料で約250万円、私立では施設設備費を含めると約450万円がかかることになっています。子供がいることで相当なお金がかかることから、現在の生活を圧迫しない範囲内で、万が一に備え、家族が暮らしていけるだけの保障は付けた方がいいのではないでしょうか。
<子供が独立した場合>
生命保険の必要性は低くなります。生命保険で死亡時の保障額を低くし、月々の保険料を下げることで、老後の資金を形成していくべきではないでしょうか。
上記で示したように人それぞれライフステージによっても必要な保険は変わってくるため、公的な保障を理解し、適切な保険に加入することが大切です。子供がいる場合は、公的な保障の受給額だけで足りないことが多く、また公的な保障の受給額や、受給するまでの期間などを考慮すると民間の生命保険への加入を検討する必要もあるでしょう 。しかし、今まで保険会社が示すままの保障額をかけて加入した生命保険はありませんか。もしそのような状況であれば公的な保障を踏まえ、現状にあわせた保険を見直してはいかがでしょうか。
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