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「2025年の崖(がけ)」に直面している日本企業の問題とその先にあるもの

2025/01/31

知恵のハコ

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2025年が始まり、早くも約1カ月が過ぎようとしています。「一年の計は元旦にあり」という諺に従い、年始に2025年の計画を立てた方も多いのではないでしょうか。さて、今年は1月にトランプ氏が米大統領に就任し、4月には大阪で万国博覧会が開催(~10月)、7月には参議院選挙、9月には東京で世界陸上が予定されています。また、10月にはマイクロソフトのOSであるWindows 10のサポートが終了し、DX化の遅れがもたらす経済損失について警鐘が鳴らされた「2025年の崖」が訪れます。

2025年が始まったばかりですが、今年改めて話題になりそうなことが「2025年の崖」です。この「2025年の崖」とは、経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」と呼ばれる資料の中で指摘されたもので、企業がデジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)を実現することができないと、大きな経済的損失を被る可能性があることを示し、DX化の必要性を訴えたものです。 本記事では「2025年の崖」の概要を踏まえ、企業が直面する課題や危機、実際に表出した事例、そして、「2025年の崖」の先にDX化によって得られる恩恵などを紹介します。

DXの定義と必要性

まず、DXという言葉は人によって捉え方が異なる可能性がありますので、本記事においてはDXを次のように定義したいと思います。DXとは、企業の単なるIT導入にとどまらず、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズに対応しながら継続的に発展できるようにビジネスモデルを変革または新たにビジネスを創出していくことです。なお、ここでいうデジタルとはAI(Artificial Intelligence:人工知能)やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)、クラウドサービスなどを含む総合的な技術を指します。
企業がDX化を推進すれば、新たな企業競争力を獲得することにつながり、社会貢献を含めた企業活動の活性化が促されるでしょう。そして、消費者生活の中にも便益が浸透していくことで、個人の生活がより快適になることが期待されます。その点においては、DX化の浸透によって、現在よりも暮らしやすい社会の実現にもつながります。

2025年の崖とは

では、日本企業が直面している「2025年の崖」とは、どのようなものか具体的に見ていきましょう。「2025年の崖」とは、DXの遅れがもたらす深刻な経済的悪影響(企業の競争力低下や業務効率の悪化)を指します。経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」では、①経営面、②人材面、③技術面の課題があり、仮にその課題を解決できなければ、2025年から2030年にかけて年間最大12兆円もの経済損失が発生する危機的状況が試算されています。そのため、日本企業には旧態依然とした体制からの脱却と新しいデジタル環境の整備が求められています。
全体像としては以下のように示されていますが、ここでは特に重要なポイントについて解説します。

DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~

画像出典:経済産業省「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」

① 経営面の課題

既存システムが事業部門ごとに部分最適を繰り返して構築されていて、全社横断的なデータ活用ができないことや過剰なカスタマイズがなされていることにより、システム構成が肥大化・複雑化・ブラックボックス化してしまったものを「レガシーシステム」と呼びます。この状態を解消できない場合には、データ活用によるDXが実現できないことにより、市場の変化に柔軟かつ迅速に対応できず、デジタル競争の敗者になってしまう恐れがあります。
また、構築から21年以上経過している基幹系システムの比率が、レポート公表当時は20%だったものが2025年には60%になると予想されており、システムの老朽化は顕著です。それに伴い、システムの維持管理費が高額化し、IT予算の9割以上を占めるという指摘もされています。この老朽化したシステムは、短期的な観点で開発・構築されたことによって、結果として長期的に保守費や運用費が高騰している状態で、いわば「技術的負債」とも言われています。さらに、このようなシステムの保守運用の担い手不足により、サイバーセキュリティ事故や災害によるシステムトラブル、データ滅失等のリスクが高まることも予想されています。

② 人材面の課題

「レガシーシステム」と呼ばれる既存の基幹システムやソフトウェアはCOBOLという古いプログラミング言語で書かれていることが多く、COBOLが分かるエンジニアの多くは2025年までに定年を迎えるため、第一線でシステムを保守してきた人材の枯渇が危惧されています。この問題を含めたIT人材の不足は2015年の17万人から2025年には約43万人にまで拡大すると推計されており、IT人材の供給不足によって最新の情報技術に基づいたシステムの刷新ができなくなることも懸念されます。また、2021年に発表された「DXレポート2.1」では企業のIT人材が育たない点も課題として挙げられており、システム開発をベンダーに丸投げして依存してしまっている企業では、社内にシステムに関するノウハウが蓄積されておらず、DX化が遅れる要因だと指摘されています。

③ 技術面の課題

技術面における課題の原因は、約8割の企業が「レガシーシステム」を運用している点です。2024年には固定電話網PSTN(Public Switched Telephone Network)の終了(IP網への切り替え)、2025年には独SAP製ERP*(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)の保守サポートが終了するため、業務にこれらを採用している企業ではシステム全体の見直しが必要になります。また、急速なデジタル化の進展によりデータの流通量も爆発的に増加しているにもかかわらず、「レガシーシステム」が足かせとなり、新たなデジタル技術を導入して迅速なビジネスモデル変革に柔軟かつスピーディーに対応することができないことも指摘されています。

*企業経営の基本となる企業資源要素(人・モノ・カネ・情報)を適切に分配し有効活用する計画や組織全体のビジネスプロセスなどを管理・自動化するための代表的なシステム

顕在化した事例

昨年2024年には老舗お菓子メーカーのプリンなどのチルド商品の一部、大手消費財メーカーの紙おむつなどが店頭配荷に加えてECでの販売もできなくなりました。これらの企業では、既存の「レガシーシステム」を移行したことによるシステムトラブルが原因だと言われています。2024年12月期決算の業績予測を下方修正するに至るなど、企業側の経済的な損失もありますが、消費者生活への影響も無視できません。そのメーカーの商品やブランドが好きで購入している消費者にとっては、代替品の購入を余儀なくされてしまいます。

2025年の崖を超えたDX実現シナリオ

DXレポートでは、先に述べた「2025年の崖」で予想される諸問題に対して、2025年までの間に複雑化・ブラックボックス化した既存システムについて、廃棄や塩漬けにされたものを仕分けしながら、必要なものについて刷新しつつ、DXを実現することによって、2030年には実質GDP130兆円の押上げを実現するシナリオが描かれています。そのためには、新たなデジタル技術の活用による新たなビジネスモデルの創出が求められます。特に2021年~2025年までをシステム刷新集中期間(DXファースト期間)と定義し、経営戦略を踏まえたシステム刷新を経営の最優先課題とし、計画的なシステム刷新の実施を勧めています。また、不要なシステムの廃棄、マイクロサービスの活用による段階的な刷新、協調領域の共通プラットフォーム活用等により、リスクを低減することで、既存システムのブラックボックス状態を解消し、データをフルに活用した本格的なDXの実行を目指す姿としています。
これらをまとめて示したものが以下の図です。この内、特筆したい具体的な数値目標を二つ紹介します。

DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~

画像出典:経済産業省「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」

① IT人材の平均年収を2017年時点の2倍程度に

既存システムの維持・保守業務から最先端のデジタル技術分野にシフトすることで、IT人材の平均年収を2017年の約600万円から2倍程度(米国並み)にすること。

② IT産業の年平均成長率を6%に

デジタル技術を活用した新規市場の開拓、社会基盤のデジタル化により、IT産業の年平均成長率を2017年の1%から6%に引き上げること。

DX化の恩恵

最近増加しているテレワークは、DXの進展が大きく関連しています。テレワークを導入するためには、オフィスで働いている時と同レベルのセキュリティ環境の構築、遠隔でも業務を円滑に行うことができる各種ツールの導入などの整備が欠かせません。短期的に見ると、テレワークの実現によって、特に幼児がいる家庭は大きな恩恵を受けることが想像できます。会社の時短制度を利用できたとしても、保育園への送迎はいつも時間との戦いです。定時のお迎えの時間に間に合わず、何度も延長保育を余儀なくされたという読者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。もし、そのような時にテレワーク制度があれば、業務中に中座して定時に子供のお迎えに行くこともでき、延長保育料金を支払わずに済むでしょう。

また、視点をもう少し中長期に向けてみると、例えば経団連が公開している動画「20XX in Society 5.0~デジタルで創る、私たちの未来~」に、デジタル革新で創る持続可能な社会の事例が紹介されています。動画内にはVR技術を活用して医療者と患者が別の空間にいるのに手術ができるという遠隔医療に関するシーンがあります。医療面においては衛生管理など越えなければならない別の課題もありますが、少子高齢化が進む日本においては過疎の地域でも高い水準の医療サービスを提供できる可能性があり、消費者も必要以上の移動を強いられずに済むという恩恵を得られるメリットも考えられますね。

まとめ

経済産業省が警鐘を鳴らした「2025年の崖」について、既に顕在化してニュースに取り上げられた事例も見受けられます。この問題に直面している企業は、その解決に向けて正念場を迎えることでしょう。しかし、「2025年の崖」を越えてDX化が実現した際には、短期的にも中長期的にも消費者を取り巻く生活への恩恵も大きいと予想されます。

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