アセットマネジメントOne 未来をはぐくむ研究所

【特別寄稿】
なぜ、今、「資産運用立国」なのか ⑧最終回

2026/02/18

本シリーズ第7回では、資産運用立国の政策の中でも、中心的な役割を担う資産運用業者について述べたが、如何に資産運用業者が頑張ろうとしても、それに資産を託する側の意識が高くなければ、十分な成果は得られない。リテールのケースでは、個人投資家に対する金融経済教育の重要性について既に述べた。機関投資家の場合にあっては、アセットオーナーが重要となってくる。

アセットオーナーの範囲は、公的年金、共済組合、企業年金、保険会社、大学ファンドのほか、例えば資産運用を行う学校法人など幅広く、その規模や運用資金の性格等は様々である。 アセットオーナーは、インベストメント・チェーンの中で、直接的又は間接的に、金融資本市場を通じて企業・経済の成長の果実を受益者等にもたらす重要な役割を担っている。そこで、政府は、2024年に、アセットオーナーが受益者等の最善の利益を踏まえてその資産を運用する責任(フィデューシャリー・デューティー)を果たしていく上で、有用と考えられる共通の原則を定めることとした。

このアセットオーナープリンシプルは、概要以下の5つの原則から成り立っている。

原則1.運用目的に合った運用目標及び運用方針を定めるべきである。
原則2.運用目標・運用方針に照らして必要な人材確保などの体制整備を行い、必要な場合には、外部知見の活用や外部委託を検討すべきである。
原則3.運用方法の選択を適切に行うほか、リスク管理を適切に行うべきである。特に、運用を金融機関等に委託する場合は、最適な運用委託先を選定するとともに、定期的な見直しを行うべきである。
原則4.ステークホルダーへの説明責任を果たすため、運用状況についての情報提供(「見える化」)を行うべきである。
原則5.自ら又は運用委託先の行動を通じてスチュワードシップ活動を実施するなど、投資先企業の持続的成長に資するよう必要な工夫をすべきである。

本プリンシプルの受入れが幅広く進むことを期待するとともに、その実施状況について、継続的にフォローアップをしていくことが大切である。

次に、投資対象となる企業に向けた取組を見ていきたい。資産運用が十分なリターンを生み、かつ、それが我が国企業・経済の成長に繋がる為には、我が国企業がより魅力的な投資先となることが重要である。こうした観点から、スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードが制定されている。

スチュワードシップ・コードは、機関投資家に対して、企業との対話を行い、中長期的視点から投資先企業の持続的成長を求める行動原則である。これに対して、コーポレートガバナンス・コードは、上場企業に対して、幅広いステークホルダーと適切に協働しつつ、実効的な経営戦略の下、中長期的な収益力の改善を図ることを求める行動原則である。我が国のコーポレートガバナンス・コードは、会社におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止といった側面を過度に強調するのではなく、むしろ企業に健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼を置いた、いわば「攻めのガバナンス」の実現を目指すものであることに特徴がある。 両コードは、いわば「車の両輪」であり、両者が適切に相まって実効的なコーポレートガバナンスが実現されることが期待されている。

金融庁と東京証券取引所は、資産運用立国の政策枠組の中で、コードの簡素化を含む、コーポレートガバナンス改革の実質化の取組を進めている。更に、東京証券取引所は、2023年に、プライム・スタンダード市場上場企業に対して、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請している。こうした取組を進めることで、企業と投資家の建設的な対話の促進や、企業と投資家の自律的な意識改革が促進されることに繋がることを望みたい。

資産運用立国の政策においては、インベストメント・チェーン全体を包摂した取組が必要であることから、これまで、それぞれの主体に向けた施策について述べてきた。強い経済にするには強い投資が必要である。高市政権は、「危機管理投資・成長投資」による強い経済を実現することを政策として掲げている。今後必要となってくるインフラの更新投資等も含めれば、膨大な投資需要が生まれてくるであろう。現在の財政状況に鑑みれば、相当部分は民間投資が担わなければならない。その為には、国内の金融資産だけではなく、海外の投資資金も呼び込む必要があろう。 日本の資産運用業の役割は今後益々重要となる。資産運用立国の政策によって、我が国の資産運用市場が更に活性化され、国際的にも競争力がある市場として発展していくことを期待したい。

最後に、投資は社会・経済的課題を解決する力があることも強調したい。ESG投資に象徴されるように、投資には、未来をはぐくむ力がある。将来の日本の金融市場に対しては、単に市場規模や利益が上がるといった側面に止まらず、社会・経済の世界的な課題の解決に貢献し得る市場となることを願っている。

(執筆 : 森田 宗男)

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