【特別寄稿】
なぜ、今、「資産運用立国」なのか ⑦
2026/01/21

今回は、インベストメント・チェーンで集められた資金の運用を担う資産運用業者について焦点を当ててみたい。
資産運用業者は、集められた資金を投資に回し、リターンを投資家に還元をする。投資対象の企業が料理の素材であるとしたならば、資産運用業者は目利きを効かせて素材を選び美味しい料理にする腕の良い料理人に当たるのかもしれない。資産運用業者は、国民の大切な資産を増やすべく投資を行い、更には、投資先の企業のビジネスを支え、雇用を創出する非常に重要な役割を担っている。
こうしたことから、英国では、金融行動監視機構(FCA)が、 2017年に資産運用市場のレビュー報告書を取り纏めている。焦点は、資産運用業者がコストに見合った便益(value for money)を顧客投資家に与えているのか、ということであった。
同報告書では、①英国の資産運用市場では価格競争が弱い、②信託報酬とパフォーマンスの間には明確な相関はない、③ファンドの目指す目的が投資家に十分伝えられていない、④リテール投資家は、ファンドの規模の利益を享受できていない、といった懸念を挙げたうえで、(イ)当局の経営幹部承認スキームの活用やガバナンスにおける最低限の独立性を求めることで、ファンドマネジャーが顧客利益の為に行動する義務を強化する、(ロ)総報酬コストを投資家に開示する、(ハ)ファンドが目指す目的を、投資家に対してより明確かつ有益な形で設定する、等の提言がなされている。
我が国においても、資産運用業の高度化は資産運用立国の政策イニシアティブの中心的なテーマの一つとなっている。金融庁が2023年に取りまとめた「資産運用業高度化プログレスレポート」においては、我が国の資産運用市場の問題点として、資産運用会社の「事務」と「運用」、販売会社の「商品提供」と「アドバイス」が一体的に運営されていることが多く、同一機能間の、競争による高度化と効率化が遅れているのではないか、また、家計・個人向けの情報開示の不足等により、資産運用に対する家計・個人の理解は必ずしも十分に進んでいないのではないか、といった点が指摘されている。
そのうえで、①経営や運用体制の透明性確保、②組成時の期待リターンが投資家のコストに見合っているか、商品が想定する投資家に提供されているかといったプロダクトガバナンスの強化、③投資信託の手数料の明確化、④販売チャネルの多様化、⑤アクティブ運用の付加価値の向上、⑥海外資産の運用力強化、及び⑦資産運用会社の独立性確保等の重要性が指摘されている。
私見ではあるが、価格競争の実効性に焦点が当てられていた英国とは異なり、我が国における資産運用市場の大きな問題は、むしろ資産運用業者が十分に利益を上げられていないことではないかと考える。
例えば、我が国市場の特徴として、当初設定額歴代上位20位以内の公募投資信託をみると、多くは、設定来数カ月から1年半以内に純資産額のピークを迎え、その後急速に縮小していき、また新しい商品が設定されていく傾向があったことが指摘されている。その結果、業界全体で多数の投資信託を抱え、管理が煩雑で非効率となっている。日本では、市場の運用資産規模は資産運用大国である米国の15分の1に留まっているにもかかわらず、ファンドの本数は1.5倍とむしろ上回っており、その結果我が国の1ファンドあたりの運用資産は米国の20分の1である。この背景としては、販売会社の販売方針がある他、投資家側にも、短期的に直ぐに利益を確定して次の商品に乗り換える傾向があったことも否めない。これでは、ファンドマネジャーに腰を据えて運用をしろと言っても難しいであろう。資産運用業界を超えた取組が必要である。
この他、我が国資産運用業界の産業構造として、金融機関グループに属する非独立系の業者のシェアが大きい、大手の業者はいずれも、日本の上場株式・債券運用中心の類似したビジネス・モデルで競う構造となっており、かつ世界的にみればいずれも規模は大きくない、自社によるグローバル株式アクティブ運用やオルタナティブ投資といった商品提供力が十分ではない、ビジネスの殆どは国内顧客向け、といった特徴がある。
本来、資産運用業こそ、国際的なビジネスとして我が国業者が世界的なプレゼンスを確立して欲しいと願う。その為にも、より良い商品の提供に向けた研究・開発、人材育成・確保、インフラ整備、DX、イノベーションの取り込み等が必要であろう。先端的なデジタル技術であっても、その活用の局面は投資判断に限られるものではない。
その他にも、リサーチ、注文執行、販売、リスク管理、開示等、可能性は多岐に亘る。こうした投資の原資として、一定の利益水準は必要であり、その為にも業者に十分な経営の自由度を確保するとともに、国際的にみても相応の規模が必要になるのではないだろうか。
折しも、日本投資顧問業協会と投資信託協会は、資産運用立国の実現に向けて、 本年4月より統合し、新たに資産運用業協会が設立されることとなった。新協会には10年後の日本の資産運用業界のあるべき姿を見据え、大いに政策提言機能を発揮して頂きたい。また、これを契機として、日本の資産運用業界に対する国民的認知度が大きく高まり、国際的にも冠たる業界として更なる発展をしていくことを望みたい。
(執筆 : 森田 宗男)









