【特別寄稿】
なぜ、今、「資産運用立国」なのか ③
2024/08/23

「日本版金融ビッグバン」構想は、フリー、フェア、グローバルの3原則に照らして必要と思われる改革は全て実行するとの考え方の下、投資対象、市場、市場仲介者を巡る規制や制度の徹底した見直しを行うことを目指したものであったと、前回書いた。しかしながら、こうした規制や制度の問題を超えた構造的な課題があったことも当時から意識されていた。
例えば、市場仲介者については、どの業者もビジネスモデルが画一的である、業者間の競争が欠如しているのではないか、その結果欧米の大手金融機関に比べスキルが劣後しているのではないか、また、特に金融商品販売の面において販売業者と投資家の間には利益相反が生じがちであるが、そうした場合に真に顧客本位の販売姿勢に立っていないのではないか、という指摘がなされていた。こうした点については、「日本版金融ビッグバン」では、証券会社の業務の多角化・差別化を可能とするよう専業義務を廃止する、新規参入を促進し競争を強化するために証券会社の免許制を登録制へ移行する、顧客に対し様々なサービスと価格の組合せを提供できるように株式売買委託手数料を完全自由化する、などの措置が取られた。しかしながら、ビジネスモデルや提供サービスの高度化そのものについては、例えば資産運用業の強化について、証券取引審議会の「証券市場の総合的改革」と題された報告書では、「専門家として投資家の期待にこたえられるよう、今後とも一層の運用能力の強化を図ることが重要である」とされているように、基本的には金融機関の自助努力に委ねられることとなった。
こうした市場仲介者の問題の他にも、投資対象となる企業については、政策保有株の保有が広く浸透していること、また低いROE(株主資本利益率)や額面配当を始めとする配当政策の面を捉え、株主を重視した経営が行われていないのではないか、といった指摘があった。更に、個人投資家に対しても、投資は怖い、まとまったお金がないから投資に踏み出せないといった投資に対する高い意識的ハードルや、投資商品に利益が出ると直ぐに売却をして益出しをするといった短期志向の投資スタンスが見られるなどの指摘もあった。こうした諸問題については、金融当局だけで取り扱える問題でもなかった為、問題点の指摘に留まる面もあったが、その後、「貯蓄から投資へ」の流れを真に太いものとするためには、投資を巡るインベストメント・チェーン全体を視野に入れた包括的な取組が必要ではないかといった意識が金融庁に高まっていくこととなる。
(執筆 : 森田 宗男)