【社会保険シリーズ】出産・育児に係る社会保険
2025/11/21

少子高齢化が進むわが国において、政府は女性が出産することに伴う離職を防ぐため数々の施策を行っています。今回は会社員の夫婦の出産・育児に係る休業と給付について説明します。出産・育児については、労働基準法と育児・介護休業法による休業や、健康保険法と雇用保険法による給付のルールがありますので、両方の側面から説明したいと思います。
育児休業取得の現状
まず、わが国の育児休業取得の現状について見てみます。
2024年度までの育児休業取得率の推移を見ると、2022年10月1日から2023年9月30日までの1年間に、在職中に出産をした女性のうち、2024年10月1日までに育児休業を開始した人の割合は86.6%となり、2010年以降を見ても概ね80%台を推移しています。
一方、同期間に配偶者が出産した男性の育児休業(産後パパ育休を含む)を開始した人の割合は40.5%となっており、女性に比べるとまだまだ高いとは言えませんが、この5年くらいで急速に上昇してきています。産後パパ育休を利用する男性が増えていることが上昇の大きな要因となっています。しかし、100人以上の会社では、男性の育児休業取得率が5割を上回っているのに対して、30人未満の会社では25.1%にとどまっており、小規模企業では男性の育児休業取得に対する理解の浸透が課題となっています。
【育児休業取得率の推移】

(出所)令和6年度雇用均等基本調査よりアセットマネジメントOne作成
このように男性の育児休業取得率が上昇してきた背景には、近年、女性活躍を推進するため、政府が男性の育児休業の取得を推進していることがあります。
女性活躍推進法においては、女性の職業選択に資する情報の公表義務の中に「男女別の育児休業取得率」を項目の一つに盛り込み、政府目標として、男性の育児休業取得率を2025年までに50%、2030年までに85%を掲げています。
また、2025年4月から改正育児・介護休業法が施行されており、①子の看護休暇の見直し(小学校就学の始期に達するまで⇒小学校3年生修了まで)、②所定外労働の制限の対象拡大(3歳未満の子を養育する労働者⇒小学校就学前の子を養育する労働者)、③育児休業取得状況の公表義務拡大(従業員数1,000人超の企業⇒従業員数300人超の企業)などが盛り込まれ、男女とも仕事と育児を両立できるように、育児期の柔軟な働き方を実現するための措置の拡充が行われています。
育児休業制度の概要
女性の出産前後の休業制度は労働基準法と育児・介護休業法で規定されており、男性の休業制度は育児・介護休業法によって規定されています。
① 労働基準法(産前・産後休業)
- 使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
- 使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。
② 育児・介護休業法(育児休業)
- 労働者は、その養育する1歳に満たない子について、その事業主に申し出ることにより、育児休業(出生時育児休業を除く)をすることができる。
- 出生時育児休業(産後パパ育休)とは、育児休業のうち、子の出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日までの期間内に4週間以内の期間を定めてする休業をいう。
- 夫婦ともに育児休業を取得した場合、子が1歳2カ月になるまで2カ月延長して取得できる「パパママ育休プラス」という制度がある。
【産前産後の休業制度】

育児に係る給付制度
女性の出産前後の給付は健康保険法と雇用保険法で規定されており、男性の給付は雇用保険法によって規定され、休業を取得した場合に給付が行われます。
① 健康保険法(出産手当金)
- 出産手当金は、出産の日以前42日(6週間)(多胎妊娠の場合は98日(14週間))から出産の日後56日(8週間)までの間に、労務に服さなかった女性に支給される。
- 出産手当金の支給額は、1日につき、出産手当金の支給開始日の月以前12カ月間の各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1の3分の2に相当する額となる。
② 雇用保険法(育児休業給付金、出生時育児休業給付金、出生後休業支援給付金)
- 男性、女性ともに、その1歳に満たない子(一定の場合、1歳6カ月(2歳)に満たない子)を養育するための休業(育児休業)をした場合に育児休業給付金を支給する。育児休業給付金は、180日を限度に休業開始時賃金日額の67%相当額を、180日を超えた部分は休業開始時賃金日額の50%相当額を支給する。
- 男性が、出生時育児休業(産後パパ育休)をした場合に出生時育児休業給付金を支給する。出生時育児休業給付金は、最大28日間、休業開始時賃金日額の67%相当額を給付する。
- 男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内に、夫婦ともに14日以上の育児休業を取得する場合に出生後休業支援給付金を支給する。出生後休業支援給付金は、夫婦それぞれ最大28日間、休業開始時賃金日額の13%相当額を給付する。
【産前産後の給付制度】

健康保険の出産手当金は「標準報酬月額×30分の1×3分の2」がベースとなり、雇用保険の育児休業給付金は「休業開始時賃金日額×67%」がベースとなりますので、出産手当金と育児休業給付金はほぼ同じ額になります。 加えて、夫も育児休業を取得することで出生後休業支援給付金として13%上乗せされ、合計で給料の80%となりますので、手取り額のほぼ100%が保障されることになります。
その他、2023年から労働政策審議会において雇用保険制度の見直しについて議論が行われ、その中で2歳未満の子を養育するために時短勤務をしている場合に、時短勤務中に支払われた賃金の10%を支給する育児時短就業給付金の制度が2025年4月から開始されました。
わが国において、女性の年齢別の労働力人口の割合をグラフにするとM字のカーブを描きますが、それが徐々に台形型に近づいてきています。しかし、25~29歳のピーク時は正社員が多いのに対して、45~49歳のピーク時はパート・タイマーやアルバイトなどの非正規社員が多くを占めているのが実情です。つまり、結婚や出産を機に一旦離職した場合、子の養育に一段落して働き始める時は正社員の再就職が難しいということです。これでは、給与水準が低くなることに伴って、老後の年金も少額となってしまいます。
ゆとりある生活を実現するためにも、出産・育児に関する休業や給付金の制度を理解して、賢く利用してもらいたいと思います。
(執筆 : 花村 泰廣)




