【社会保険シリーズ】50代で知っておきたい年金制度
2025/02/21

多くの皆さんにとって50代は老後生活に向けた準備のラストスパートを掛ける時期だと思います。今回は、そんな50代の最大の関心事といえる会社員の60歳以降の老齢年金について説明することにします。
老後生活の収入の柱になるのは、やはり公的年金
公的年金である老齢基礎年金と老齢厚生年金は、「歳を取って働けなくなること」を保険事故とする「保険」という考え方のもと、繰上げや繰下げの制度を活用すれば、60歳から75歳の間でリタイアするタイミングに合わせて、受給を開始することができる制度であるということができます。
厚生労働省「2023(令和5)年 国民生活基礎調査の概況」によると、高齢者世帯の所得に占める「公的年金・恩給」の割合は62.9%となっており、「稼働所得」の26.1%を大きく上回り、公的年金が老後生活費の柱になっていることが分かります。
また、下図にあるように「公的年金・恩給」を受給している高齢者世帯の中で、「公的年金・恩給の総所得に占める割合が 100%の世帯」、つまり年金だけで生活している世帯は41.7%と、シニア世代の多くが公的年金に頼っている様子がうかがえます。
【公的年金・恩給の総所得に占める割合】
(出所)「2023(令和5)年 国民生活基礎調査の概況」(厚生労働省)よりアセットマネジメントOne作成
皆さんは、毎年、誕生日月になると送られてくる「ねんきん定期便」をご覧になられているでしょうか?
50代になって送られてくる「ねんきん定期便」は、60歳まで同じ働き方をした場合に65歳から受け取ることのできる年金額が記載されていますので、ご覧になられていない方は、是非ともご自身の年金額を確認されることをお勧めします。老後の準備は、自分がいくら年金をもらうことができるかを知ることから始まります。
自営業やフリーランスの方だと老齢基礎年金のみとなりますので、国民年金基金か確定拠出年金で上乗せを考える必要があると思われますが、会社員や公務員であれば、65歳から受給できる老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計額は、平均して月額16万円程度※になりますので、生活費の基礎部分を年金でまかなうことができます。
もし、年下の配偶者がいらっしゃる場合であれは、配偶者が65歳になるまで老齢厚生年金に配偶者加給年金と特別加算が上乗せになりますので、年間で約40万円が上乗せされます。
※2025年度の年金額から計算。平均標準報酬45.5万円で40年間就業した場合を想定。
会社員が60歳から65歳まで働いたら、年金はどうなる?
自営業者やフリーランスのような国民年金第1号被保険者や専業主婦のような国民年金第3号被保険者は、60歳になると被保険者でなくなりますが、会社員の場合は65歳まで国民年金第2号被保険者となります。
会社員は厚生年金保険料を65歳までずっと払わされるのかと思われたかもしれませんが、その分老齢厚生年金の年金額が増えていきます。加えて「経過的加算」というものがあります。
経過的加算とは、厚生年金の加入期間が40年(480カ月)に満たない場合に老齢基礎年金の相当額が老齢厚生年金に上乗せされる仕組みで、例えば23歳で就職して60歳まで会社員として働いたとした場合、厚生年金の加入期間は37年となり、63歳まで働いて厚生年金保険料を納めることで、老齢基礎年金に相当する3年分の額が老齢厚生年金に上乗せになるという制度です。
この経過的加算については、老齢厚生年金と合わせて受給することになりますので、繰上げも繰下げもそれぞれ同率で、減額、増額されることになります。もちろん、経過的加算だけを繰上げ・繰下げすることはできません。下図は、加給年金と経過的加算を加えた公的年金の受給イメージとなります。
【公的年金のイメージ】
※5歳年下の配偶者がおり、その配偶者が240カ月以上の老齢厚生年金を受給していないと想定。
会社員が65歳以降も働き続けたら、年金はどうなる?
厚生年金の加入期間は70歳までとなっており、65歳以降も適用事業所で働く場合は厚生年金を増やすことができます。そこで、65歳以降も働き続けた時の厚生年金について、退職改定、在職老齢年金、在職定時改定という3つの制度をご説明します。
①退職改定
まず、退職改定というのは、読んで字のごとく退職した時に、それまで厚生年金に加入していた期間に応じて老齢厚生年金を増額するという仕組みです。例えば、65歳から老齢厚生年金を受給しながら働いていた人が67歳で退職した場合、退職してから1カ月以上再就職しなければ、退職日の翌月から2年間の被保険者期間に対応する年金額が老齢厚生年金に増額されます。
例えば月に40万円の給料をもらって2年間働いていた場合、老齢厚生年金は年間で5万円あまり増えるようなイメージです。
②在職老齢年金
老齢厚生年金を受給している人は働いていないことが前提になっているため、働いている場合は老齢厚生年金が「在職老齢年金」という名前に代わります。
年収の月平均額と老齢厚生年金の額の合計額が、支給停止調整額(2024年度:50万円、2025年度:51万円)を超えた場合、超えた額の2分の1の額が老齢厚生年金の額から差し引かれて、在職老齢年金が支給されます。
例えば、年収の月平均の額が40万円、老齢厚生年金の額が16万円だとした場合、在職老齢年金の額は13万5千円 〔=16万円+(51万円-40万円-16万円)÷2〕 となります。
ちなみに、在職老齢年金は65歳前でも70歳以降でも対象となりますので、繰上げ受給をした場合も在職老齢年金によって年金額が減額されることがあります。一方で、繰下げをした場合は、在職老齢年金制度によって減額された部分は、繰下げによる増額の対象とはなりません。
なお、上記の支給停止調整額は、毎年度、名目賃金変動率を基準に見直しが行われ、1万円単位で決定されることになっています。ただし、2026年度に62万円まで引き上げる方向で法案が改正される見込みです。
③在職定時改定
在職定時改定も65歳以降に働きながら老齢厚生年金を受給している時の制度です。
毎年9月1日において厚生年金の被保険者である受給権者(年金を受給しながら働いている人)の老齢厚生年金について、毎年10月に再計算を行って、その年の8月までの1年間の加入期間に対応する額が老齢厚生年金に増額されます。
【在職定時改定】
(出所)日本年金機構資料よりアセットマネジメントOne作成
いかがでしたでしょうか?
公的年金制度は、国民年金第1号被保険者の納付期間を65歳まで引き上げる、第3号被保険者の制度を廃止する、厚生年金の適用を拡大(106万円の壁を撤廃)する等、今後も改正が続くと予想されます。引き続き、年金制度の行方をウォッチしながら最新情報をお伝えしていきたいと思います。
(執筆:花村 泰廣)