【社会保険シリーズ】2025年度の年金額は3年連続の上昇
2025/01/31

毎年1月になると翌年度の年金額が公表されますが、2025年度は3年連続の上昇となりました。
2025年度(2025年4月~2026年3月)に老齢基礎年金(満額)は月額69,308円(前年度比+1,308円)、昭和31年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金(満額)は69,108円(同+1,300円)で決定されました。老齢基礎年金は偶数月の原則15日に前月までの2カ月分が支給されますので、2025年6月に支給される4月分と5月分からこの金額が適用されます。
今回は、年金額がどのように決定されるのかご説明したいと思います。
老齢基礎年金の年金額
国籍に関わらず、わが国に居住している20歳以上60歳未満のすべての人は、毎月「17,000円×保険料改定率」(2025年度:17,510円)の国民年金保険料を40年間納付すると、65歳から老齢基礎年金として「780,900円×改定率」が亡くなるまで受給できる仕組みとなっています。仮に40年間、賃金や物価水準が変わらないとすれば、10年あまりで元が取れる計算になります。
しかし、賃金や物価水準は変動するため、国民年金保険料は名目賃金変動率によって、老齢基礎年金額は名目手取り賃金変動率、或いは物価変動率によって毎年度改定されることで、ある程度はインフレにも対応できるようになっています。
2025年度の老齢基礎年金額については、下記のように決定されました。
老齢基礎年金額(満額)
=780,900円×1.045×1.019÷12月
=月額69,308円 (前年度比+1,308円)
【老齢基礎年金の年金額推移(新規裁定者)】
(出所)厚生労働省のデータよりアセットマネジメントOne作成
では、年金額について、どのように改定されるのか、もう少し詳しく説明することにしましょう。
年金額は65歳から67歳に到達する年度まで(新規裁定者)と、68歳に到達する年度から(既裁定者)では計算方法が異なります。
67歳到達年度以前の新規裁定者は、まだ現役を引退してから間もないので「名目手取り賃金変動率」をベースに年金額が計算されます。一方、68歳到達年度以後の既裁定者は「名目手取り賃金変動率」か「物価変動率」のいずれか低い方を基準に年金額が計算されます。
2025年度の年金額の計算に使われる2つの指標は、以下のように名目手取り賃金変動率が+2.3%、物価変動率が+2.7%と決定されました。
①名目手取り賃金変動率
=実質賃金変動率▲0.4%(2021年度~2023年度の平均)+物価変動率2.7%(2024年の値)+可処分所得割合変化率0.0%(2022年度の値)
=+2.3%
②物価変動率
=+2.7%(2024年の値)
そして、下図のように「名目手取り賃金変動率」と「物価変動率」の組み合わせにより、年金額は改定されます。赤枠で囲ったものが2025年度のイメージになります。
【年金額の改定イメージ】
出所:厚生労働省資料よりアセットマネジメントOne作成
マクロ経済スライドの仕組み
ここからは「マクロ経済スライド」という仕組みについてお話しします。 少子化は現役世代の保険料収入の減少につながり、高齢化は年金給付額の増加につながりますので、マクロ経済スライドは少子高齢化の影響を年金額に反映させる仕組みです。
下図はマクロ経済スライドの調整イメージを表したものですが、景気拡大期には賃金や物価が大きく上昇するので、マクロ経済スライドはそのまま適用されます。その後、景気後退期に賃金や物価の上昇がそれほど大きくない局面ではマクロ経済スライドをそのまま適用してしまうと年金額がマイナスとなるため、調整を部分的にとどめ年金額の改定は行われません。
さらに、景気回復期に再び賃金や物価が大きく上昇する局面で、それまでの未調整分と合わせてマクロ経済スライドが適用され、年金額の延びが抑制される仕組みになっています。この未調整分のことをキャリーオーバーと呼んでいます。
【マクロ経済スライドによる調整イメージ】
出所:厚生労働省資料よりアセットマネジメントOne作成
2025年度のマクロ経済スライドによる調整率は、「公的年金被保険者数変動率▲0.1%+平均余命の延び率を勘案した率▲0.3%」で計算され、▲0.4%となりました。ちなみに、マクロ経済スライドによって調整できなかった未調整分(キャリーオーバー)はありませんでした。
このようなプロセスを経て、2025年度のマクロ経済スライドによる調整後の年金額が下図のように決定されました。
【2025年度の年金額改定率】
出所:厚生労働省資料よりアセットマネジメントOne作成
老齢厚生年金の年金額
老齢厚生年金は、老齢基礎年金のように「改定率」を使うのではなく、会社員であった期間に受け取った給与と賞与を年度ごとに計算する際に使われる「再評価率」によって年金額が決まる仕組みとなっています。この再評価率は、老齢基礎年金の改定率と同じように賃金や物価の変動率をもとに計算され、マクロ経済スライドによる調整も行われます。その結果、老齢厚生年金の額は会社員であった期間に応じて下記のように計算されます。
①2003年3月以前の加入期間
老齢厚生年金額(年額)=平均標準報酬月額※1×7.125÷1000×加入期間の月数
②2003年4月以後の加入期間
老齢厚生年金額(年額)=平均標準報酬額※2×5.481÷1000×加入期間の月数
※1 平均標準報酬月額とは、加入期間について各月の標準報酬月額に「再評価率」を掛けた額の総額を加入期間の月数で除したもの。
※2 平均標準報酬額とは、加入期間について各月の標準報酬月額と標準賞与額に「再評価率」を掛けた額を加入期間の月数で除したもの。
2025年度の老齢厚生年金(月額)のモデル世帯(会社員の夫、専業主婦の妻)について決定された年金額は、夫が平均標準報酬(賞与含む月額換算)45.5万円で40年間就業した場合、夫の老齢厚生年金と夫婦の老齢基礎年金(満額)を合計して月額232,784円(前年度比+4,412円)となりました。
いかがでしたでしょうか?
筆者は、年金額の詳細な決定方法まで理解する必要はないと思っていますが、おおまかにどのような仕組みで年金額が決定されるのか、将来のインフレにどの程度対応できるのかを知っておいていただければ、年金制度に対する過度な不安は払しょくされるのではないかと考えています。
(執筆 : 花村 泰廣)