アセットマネジメントOne 未来をはぐくむ研究所

【投資の基本と実践④】確率を考える

2025/08/01

前回は「リスク」についての解説でしたが、今回はリスクを考える前提となる「確率」について考えます。投資は経済動向や企業業績の分析が重要と考える人が多いのですが、それと並んで「確率」の考え方は重要です。筆者は、損をする確率を低くし、大きな失敗を回避できれば、投資で資産は増えると考えます。

投資における確率の重要性

投資で確率を重視する理由は、投資が複雑で結果が不確実だからです。株式市場や他の投資市場は、経済状況、企業業績、政治的な出来事、自然災害、集団心理など様々な要因で変動します。現在の価格は、値上がりを期待する人と値下がりを予想する人の均衡点です。そのため予測しても当たるとは限らないので、値動きの幅や可能性の度合を示す確率の概念が重要になります。

確率を理解することで、投資家は自分の投資がどれだけの収益または損失を伴うかを把握しやすくなります。例えば、ある株式が過去にどれだけの頻度で値上がりしたか、または値下がりしたかを分析することで、その株式の将来の投資成果のブレの範囲をある程度予測できます。また、確率を重視することで、投資家は投資に対して冷静かつ客観的にリターンの目標を考え、リスクをある程度コントロールできます。例えば、1950年から2024年までの日経平均株価の年間騰落率の分布は、【図表】のとおりです。経済構造の変化によって、将来期待される平均的な利回りは多少変動する可能性がありますが、変動率の範囲と頻度の傾向は大きくは変わらないと考えられます。

【図表】日経平均株価の年間騰落率別頻度分布

日経平均株価の年間騰落率別頻度分布

(出所)BloombergのデータをもとにアセットマネジメントOne作成

損をする確率を可能なかぎり低くする

投資において重要なことの一つは、損をする確率を可能な限り低くすることです。もちろん、投資の損益はマーケットの変動の影響が大きいので、それと比較すると以下お話しする内容は些細なことに映るかもしれません。しかし、この積み上げが運用成果に影響します。

まず、手数料の削減です。投資信託や株式取引など、投資を行う際には様々な手数料が発生します。これらの手数料は、投資の成果に負の影響を与えます。そのため、手数料の低い商品を選ぶことや取引頻度を抑えることが重要です。ただし、手数料は安ければ良いというものではなく、商品性、取引に見合っているかという観点から考える必要があります。

次に、税制優遇制度の活用です。通常、株式や投資信託などの金融商品に投資をした場合、これらを売却して得た利益や受け取った配当や分配金に対して約20%の税金がかかり、その分手取りベースの投資成果は減少します。税金は投資をする上での大きな利回りのマイナス項目です。現在、NISA(少額投資非課税制度)や企業型DC(確定拠出年金)、iDeCo(個人型確定拠出年金)など税制優遇制度がありますので、投資をする場合は利用必須です。少し手間はかかりますが、税金という負の影響を軽減できます。

さらに、投資の基本を冷静に実践できる自動化の仕組みが重要です。感情的な投資と冷静な投資では冷静な投資の方が成功する確率が高いからです。投資の基本は、長期、積立、分散投資です。その実践のためにNISAのつみたて投資枠や企業型DC、iDeCoなどの税制優遇の仕組みを積極的に活用し、自動化してしまうのです。自動化すればその後の手間やマーケットの変動によるストレスが軽減でき、生活スタイルとして長続きします。しかも税制優遇制度はお得です。

大きな失敗を回避する

株式や投資信託などマーケットで価格が変動する商品に投資するのであれば、値下がりによる損失や含み益の減少など不安になる局面を必ず経験します。これは投資の専門家であっても同じです。ただ、大きな失敗を回避できれば、損益の変動はあっても資産は増加すると考えられます。小さな失敗・損失は金銭的にも精神的にも回復可能ですが、大きな失敗は金銭的にも精神的にも回復不可能となるケースが多くなります。大きな失敗のパターンは主に次の3つと考えていますが、確率を考え、冷静に判断できれば、回避または回復可能な範囲の失敗にとどまると考えられます。

①欲張り

大きな失敗の根底にあるのは、「欲張り」という感情だと考えます。投資には「欲」があって当然です。しかし、理性・論理的な投資の方が感情的な投資よりも成功する確率は高いと思いますので、「欲」をある程度コントロールすることが重要です。「欲張り」になって大きく儲けることを考えれば当然投資はリスクの高いものに集中することになります。リスクの高いものに集中すれば、当然失敗したときの損失も大きくなります。「欲張り」という感情は失敗の発生確率を過小に見積もる一方で成功確率や利益額を過大に見積もる傾向があるので注意が必要です。

②バブル

バブルは、株や不動産などの価格が理論的な価値よりも異常に高くなる現象です。人々が「もっと値上がりする」と期待し、それが拡散することで買いが買いを呼び、熱狂とともに投資金額は大きくなり、価格が上昇します。しかし、熱狂で大きく上昇したマーケット(バブル)は、何かのきっかけで理論的な価値に戻ろうとして、下落します。今度はその下落がパニック(絶対に上昇すると考えて購入したものが下落に転じた時の強烈な損失への不安)を招き、売りが売りを呼び価格が大きく下落します(バブルの崩壊)。これが大きな失敗の原因になります。上昇局面で「確率上こんないいことが継続することはないだろう」と判断して投資をコントロールしておけば大きな失敗は回避できますが、熱狂と欲張りがその冷静な判断を阻害します。

③投資詐欺

最近は、SNSや投資セミナーなどを通じた投資詐欺で大きな失敗をする人が増加しています。詐欺の場合、通常の投資と違って回復の可能性はゼロです。以前はお金に関する犯罪は窃盗が主流でしたが、現在は詐欺が主流になりました。確率的に考えれば「絶対に儲かる投資はない」と理解していても、騙されるのが現実のようです。筆者も投資の仕事をしている中で何度か詐欺師の話を聞いたことがありますが、手口がとても巧妙です。現在の詐欺は、AIなどを活用し、有名人から直接投資の指南を受けられることを装う手口もあります。「投資は一般的な金融商品に対して自己責任で行う」原則を守れば詐欺に遭わないのですが、「ひょっとしたら」や「今だけ、ここだけ、あなただけ」といったささやきに惑わされて、詐欺師の餌食になります。

確率の概念は少し難しいのですが、ポイントを理解していただくだけでも投資を冷静に考える道具として活用できます。

(執筆: 村井 幸博)

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