【投資の基本と実践①】投資の基本
2025/05/07

今月から「投資の基本と実践」と題したコラムを連載します。筆者が業務として投資をスタートしたのは1984年になります。国際投資業務(海外債券・株式投資)からスタートし、その後いろいろな資産の運用・投資を経験し、マーケットとかかわってきました。 40年余りの経験を通じて、「投資の基本を実践する」という平凡なテーマがいかに重要であるかを痛感してきました。このコラムでは、その経験から得た知見を皆さんと共有し、投資の成功に役立てていただければと思います。
過去の大きな下落局面
トランプ関税の影響でマーケットは不安定になっていますが、暴落を予想している人は現時点ではほとんどいないようです(年末強気派が多い)。ただ、長期で株式市場を考えると大きな下落局面が発生しています。第二次世界大戦後東京証券取引所での株取引の再開は1949年ですが、皆さんは戦後から現在まで、日経平均株価が6割以上下落した局面が何回あるかご存じですか?
答えは以下の(資料)のとおり、3回になります。すべてが1990年以降の出来事です。
(資料)
ピーク時の日経平均株価 | その後の日経平均株価の安値 | 下落率 | |
不動産バブル崩壊 | 38,915円 (1989年12月29日) |
14,309円 (1992年8月18日) |
約63% |
ITバブル崩壊・金融危機 | 20,833円 (2000年4月12日) |
7,607円 (2003年4月28日) |
約63% |
米住宅バブル崩壊 (リーマンショック) |
18,261円 (2007年7月9日) |
7,054円 (2009年3月10日) |
約61% |
また、昨今の日本株は、リーマンショックによる底値(2009年3月)から約15年間、新型コロナウイルスでの一時的な下げがありましたが、長期の上昇相場を形成しています。7,054円を底値とすれば約6倍上昇したことになります。今回に匹敵する長期上昇相場は第一次石油ショック後の安値(1974年10月)から不動産バブルの高値(1989年12月)まで以来になります。当時の相場の主役は強い日本でしたが、今回の相場の主役は強いアメリカになります。
過去の暴落から学んだこと
私は過去3回の暴落相場を経験していますが、そこで次のようなことを学びました。
- 株価は永遠に下げ続けるわけではないこと
例:日本の金融危機、米国のリーマンショック後の株価反転上昇 - 企業努力、財政・金融政策によって株価は回復すること
例:アップルの復活、アベノミクスによる株価上昇 - バブルのときも暴落のときも人間は多数派に追随する判断をして、大きな失敗につながること
例:不動産バブル・ITバブルの形成とその崩壊
現在から歴史を振り返ると、この3つの学びは当たり前のことなのですが、その渦中にいるとそのように思えない状況でした。「行き過ぎもまた相場」という相場の格言がありますが、下落するときも上昇するときも「行き過ぎる」ケースが多々あります。上昇し過ぎれば人々は熱狂してバブルになり、下落し過ぎると人々はパニックになります。バブルは多くの人が買っている、暴落は多くの人が売っているから発生しますが、人間はどうしても多数派に追随する傾向があります(多数派同調バイアス)。そしてバブルの時に購入して、パニックの時に売却することで大きな失敗になります。「価格がブレると心がブレる。心がブレすぎると熱狂・パニックになり、大失敗をする。」というのが筆者の経験です。
投資の基本
投資の基本は、マーケットが大きく変動しても安定的に資産をふやすための原則だと思います。「長期・積立・分散」投資が投資の基本であり、これを確実に実践することが安定的に収益をふやすことにつながると考えます。しかし、この結論に確信が持てるようになるには筆者自身時間がかかりましたし、実践するのは簡単なことではありません。投資といえば、「予想したものが、当たって儲かる」投資をイメージする人は筆者を含めて多く、そのための知識とノウハウ修得を重視するのではないでしょうか。
「長期・積立・分散」投資のメリットは、時間を味方にして、リターンを安定化することです。長期投資は時間の経過とともにリターンを安定化させる可能性を高めます。積立投資は定期的に一定額を投資することで、時間とともに確実に元本が増加し、かつマーケットの価格変動のリスクを平均化します。分散投資は異なる資産クラスや地域に分散することで、一部の投資が上手くいかなくても他の投資がカバーすることでリスクを軽減します。
「長期・積立・分散」投資は、投資家が市場の変動に対して冷静さを保つ仕組みとして、感情的な判断を避ける助けにもなります。しかし、一方で「予想したものが、当たって儲かる」投資のような短期的な達成感がないため面白味に欠ける部分があります。また、投資の10年、20年といった時間サイクルと人間の時間感覚は大きく異なるため、短期的な判断になりがちです。
投資の基本自体はそれほど難しいことではないのですが、基本通りに実践することが難しいのです。このコラムを通じて、読者の皆様が「投資の基本と実践」を理解し、実際の投資活動に役立てていただければ幸いです。
(執筆: 村井 幸博)