【社会保険シリーズ】最近注目されている「選択制DC」のメリット・デメリット
2025/10/17

最近、新たに確定拠出年金制度を導入する企業において「選択制確定拠出年金(選択制DC)」が注目されています。「選択制DC」にはメリットがある一方でデメリットもありますので、今回はその「選択制DC」について分かりやすく解説したいと思います。
選択制DCの仕組み
最近の報道によると、選択制DCは「給与減額型選択制企業年金」とも呼ばれ、新規の企業年金導入の8割程度が選択制DCという運営管理機関があると報じられています。選択制DCの「選択制」というのは、「給与減額型」とも言われるように、従業員が「給与」として受け取るかわりに「DCの掛金」を「選択」した場合、給料がその分減額されるというものです。このように聞くと、給料が減らされるのであればDCを選択しない方が良いのではという声も聞かれそうですが、「選択制DC」にはメリットもあります。
そのメリットの話をする前に、社会保険について簡単にお話させて頂きます。
社会保険制度には、「国民年金」や「厚生年金」といった公的年金、「確定給付年金」や「確定拠出年金」といった私的年金、「健康保険」、「介護保険」などがあり、その他に労災保険や雇用保険といった労働保険も含まれます。今回説明する「選択制DC」というのは「企業型確定拠出年金(企業型DC)」に分類され、会社員が対象となります。
70歳未満の会社員については、健康保険と厚生年金に加入して、給料に応じた保険料が毎月天引きされますが、その額は健康保険であれば約10%、厚生年金であれば18.3%を事業主と会社員が折半して負担しています。
では、この率は何に対する率かというと、毎年4~6月の給与を基準に「報酬月額」が決定され、それに基づいて下表のテーブルによって「標準報酬月額」が決定され、それに対する率となります。
この表の見方としては、健康保険については、報酬月額が6.3万円未満の人は標準報酬月額が5.8万円で決定され、報酬月額が135.5万円以上の人は標準報酬月額が139万円で決定されるということです。同様に厚生年金については、報酬月額が9.3万円未満の人は標準報酬月額が8.8万円で決定され、報酬月額が63.5万円以上の人は標準報酬月額が65万円で決定されます。
そして、この標準報酬月額に健康保険であれば約10%の半分である約5%、厚生年金であれば18.3%の半分である9.15%を掛けて、毎月の保険料が決定されるというわけです。
なお、2003年4月からは総報酬制が導入され、賞与(標準賞与額)からも同じ率の保険料が控除されることになっています。健康保険料は賞与額が年度合計で573万円、厚生年金は1カ月当たり150万円を上限に保険料を払うことになっています。
【標準報酬月額表】
※報酬月額は「以上~未満」
※厚生年金の標準報酬月額の上限は、68万円(2027年9月~)、71万円(2028年9月~)、75万円(2029年9月~)と段階的に引き上げられる予定。
(出所)各種資料よりアセットマネジメントOne作成
選択制DCのメリットとデメリット
この社会保険料の取扱いが、企業型DCや選択制DCと、企業型DCのマッチング拠出や個人型確定拠出年金(iDeCo)とでは異なってきます。
下表のように、企業型DCや選択制DCは事業主が拠出することになっており、それらは税金と社会保険料の計算の基礎にはなりません。一方で、企業型DCのマッチング拠出やiDeCoについては加入者(会社員)が拠出することになるため社会保険料は控除されません。
【選択制DC、企業型DC、iDeCoの比較】
(出所)各種資料よりアセットマネジメントOne作成
メリット① 掛金が所得控除される
確定拠出年金共通のメリットとなりますが、DCの掛金は所得控除されますので、所得税と住民税が掛からないというメリットがあります。
メリット② 社会保険料を減らすことができる
選択制DCを導入した場合において、掛金に対する社会保険料の負担を減らすことができます。例えば、毎月2万円の拠出をした場合、健康保険料と厚生年金保険料などを合わせて1年間で約3.6万円(=2万円×12月×約15%)、勤続期間を40年間とすると保険料を約144万円減らすことができることになります。
また、社会保険料は、基本的に労使折半となりますので、事業主にとっても同額の社会保険料(法定福利費)の負担が減ることも、事業主が導入するインセンティブになっています。
デメリット① 将来受け取る老齢厚生年金が減る可能性がある
選択制DCの拠出額に対する厚生年金保険料を支払わなかった分、将来受け取る老齢厚生年金が減ることが想定されます。老齢基礎年金に関しては全く影響ありませんが、老齢厚生年金は報酬に比例して年金額が決まってきますので、保険料を納めなかった分だけ受給額が減ってしまう可能性があるのです。
例えば、40年間加入した人の老齢厚生年金は、平均標準報酬額(=(標準報酬月額+標準賞与額÷12月)×再評価率)が36万円の場合と34万円の場合で計算してみましょう。36万円の場合では1年当り約94.7万円(=36万円×0.005481×480月)の年金額となり、仮に25年間受給したとすると約2,368万円となります。
平均標準報酬額が34万円の場合は、1年当り約89.4万円(=34万円×0.005481×480月)の年金額となりますので、同様に25年間で計算すると約2,236万円となり、両者の差である約132万円が老齢厚生年金の減額分となります。
ここでは一定条件で計算してみましたが、実際には条件が異なるため、一概にどちらが有利でどちらが不利とは言い切れませんが、DC掛金を控除してもなお標準報酬月額の上限を上回っている場合は確実にメリットとなり、DC掛金が少ないために標準報酬月額の等級が変わらない場合はメリットもデメリットも無いと言えます。
デメリット② 他の社会保険の給付が減る可能性がある
給与水準に応じて受け取ることのできる労災保険の給付や雇用保険の基本手当等、また健康保険の傷病手当金や出産手当金、育児休業給付金なども減ってしまう可能性があるというデメリットがあります。
メリット③ 口座管理手数料が掛からない
選択制DCは企業型DCと同様、口座管理手数料は事業主が負担しますので、加入者は負担しなくて済みます。ただ、iDeCoは2027年には会社員の拠出上限額(2万円、2.3万円)が撤廃される予定となっていますので、選択制DCの運用商品よりも、iDeCoの運用商品の方が魅力がある場合には、自分で口座管理手数料を負担してiDeCoを選択する方が良いかもしれません。
選択制DCやiDeCoの活用法
それでは、お勤めの会社で選択制DCを採用している場合、どのように活用していったらよいのか説明しましょう。
一般的に選択制DCを採用した場合、「ライフプラン手当」とか「ライフプラン資金」、「ライフプラン選択金」などと会社によって名称は異なりますが、給与の一部を切り分ける形になります。そして、そのライフプラン手当を受け取る場合は給与として扱われますが、ライフプラン手当の代わりにDC掛金として拠出することを選択した場合は、企業型DCの事業主掛金と同じ扱いとなります。
下図のようにDC掛金は会社員がライフプラン手当の範囲内で自分で決定することができますので、生活に余裕がない時には拠出額を減らしたり、余裕がある時には増やしたりすることができます。しかし、一旦DCを選択した場合は全額をライフプラン手当にすることはできませんので、ご注意ください。
【選択制DCのイメージ】
※上記はイメージで、すべてのものを表しているわけではありません。
下図は「選択制DC」と「企業型DCのマッチング拠出」、「iDeCo」、「NISA」の使い分けのイメージを表しています。基本的な考え方としては、給与水準が低く、将来ライフイベントが控えているような若年層はNISAをメインに考え、給与水準が高く、老後資金の準備をする場合にはDCをメインに考えるということになるでしょう。
その上で、企業型DCは口座管理手数料等を事業主が負担してくれるため、企業型DCのマッチング拠出、或いは選択制DCをiDeCoよりも優先するという考え方になります。
【選択型DC、企業型DC(マッチング拠出)、iDeCo、NISAの使い分けイメージ】
※上記はイメージで、すべてのものを表しているわけではありません。
選択制DCは一概にメリットとデメリットを比較することは難しいかもしれませんが、会社員が「選択権」を得られることは資産形成の方法の幅が広がるということですから、ご自身のライフプランと合わせてどのように活用していくか、考えてみてはいかがでしょうか。
(執筆:花村 泰廣)