アセットマネジメントOne 未来をはぐくむ研究所

【ピックアップコラム 海外の金融経済教育①】
お金のウェルビーイング向上のための金融経済教育とは?

2025/02/28

最近、日本でも金融経済教育の重要性が広く認識されるようになりました。その一環として、金融商品取引法に基づいて金融経済教育機構(J-FLEC)が設立され、未来をはぐくむ研究所や多くの民間団体がさまざまな取り組みを進めています。金融経済教育の目的は、皆さんそれぞれの「お金のウェルビーイング」を向上させることだと考えていますが、そもそもこの「お金のウェルビーイング」とはどのようなものなのでしょうか。

お金で幸せを買うことができると思いますか?

「お金で幸せを買うことができると思いますか?」という質問をされた場合、どうお答えになりますか?お金があった方が幸せだけど、幸せを「買える」といわれるとなかなか「はい」とは答えにくいかもしれませんね。

お金のウェルビーイングという観点でいえば、「お金がたくさんあれば、心配することもなく、好きなことにお金を使えるから幸せで安心できて、ウェルビーイングが実現するのでは?」と思われるかもしれません。確かにそういう方もいらっしゃるかもしれませんが、実は必ずしもそうとは言い切れません。米国の研究によれば、収入が増えてお金に余裕ができたときの幸福度について、以前は「収入が増えても、ある段階で幸福度は上がらなくなる」とされていました。より具体的にいうと、年収が75,000ドル(今のレートで約1,150万円)に達するまでは、年収が増加すると幸福度も上がるものの、この水準を超えると年収が増えても幸福度が上がらないといわれていたのです(1)

それに対する反論もあったりしましたが、最近の研究では、もともと幸福度が高い人は収入が上がるにつれて幸福度も上がっていく一方、もともとの幸福度が低い人は一定の収入に達した時点であまり幸福度が上がらなくなることが示されています(2)。具体的には、幸福度が低い人々、下位15~20%に位置する人たちは、収入が10万ドル(米ドル)くらいまでは収入の増加とともに幸福度も上がるのですが、10万ドルを超えると幸福度が上がりにくくなるそうです。もともとの幸福度はお金の多寡にも影響されますが、その他のさまざまな要因によっても決まります。つまり、幸福を感じられていない限り、お金が増えても幸福度はなかなか上がらないといえるでしょう。

お金への憂いをなくそう

では、金融経済教育は一体何を目指すべきなのでしょうか。私は、お金を目的としてではなく、それ以外の目的を達成するためのツール、自分の人生の道具として活用する方法を学ぶことで、お金に対する不安を解消すること、つまりはお金への憂いをなくしていくことが大切だと考えています。お金は現代社会で何をするにも基本的に必要です。お金に関する教育を通じて、単に知識やスキルを身につけるだけでなく、お金を自分の人生の味方にする、つまり自分の目的を達成するためにお金がどれくらい必要で、それをどう準備し、管理していくのかを考えることが重要なのです。

今の日本の金融経済教育をみてみると、お金に関する知識やスキルについてはさまざまなツールや情報が出てきていますが、お金に対する向き合い方を考えるような教育はあまり見受けられないように思います。お金に関する知識とスキルは「金融リテラシー」と呼ばれ、日本では「金融リテラシーマップ」が10年ほど前に作成され、金融経済教育において重要な情報として位置づけられています。そのため、学校教育でも金融経済教育の内容は強化されてきているものの、経済や金融に関する知識を入れるだけにとどまっていて、皆さんの実生活につなげて身近に役立てることが難しいのではないかと危惧します。ましてや、日本の年金制度や税体系はとても複雑なので、それを理解して覚えようとするととても大変です。その上に、いろいろな金融商品の仕組みや知識を頭に入れておこうとしても、挫折してしまって結局自分がどうしたらいいのかわからなくなってしまうのではないでしょうか。

では、どのような教育をすれば(受ければ)、皆さんのお金のウェルビーイング向上につながるのでしょうか。次回は、海外における金融経済教育がどのようにお金のウェルビーイングを位置づけ、どのような教育カリキュラムが組まれているのかについてお話ししたいと思います。

(執筆協力:運用本部 石橋克巳)

(脚注)

1. Daniel Kahneman at el., “High income improves evaluation of life but not emotional well-being”, Proceedings of the National Academy of Sciences, Vol. 107 | No. 38, September 2010.

2. Matthew A. Killingsworth at el., “Income and emotional well-being: A conflict resolved”, Proceedings of the National Academy of Sciences, Vol. 120 | No. 10, March 2023.

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