【知っておきたい! 金融リテラシー⑥】
60代で考えるべきセカンドライフの準備、親の介護、親の相続
2024/10/16

60代はセカンドライフへの過渡期です。充実したセカンドライフを過ごすためには準備が必要です。その一方で、親の介護や相続といった現実的な問題にも直面します。これらの問題に対処するためには、一定の予備知識と事前の対応が欠かせません。
セカンドライフの準備
まず、セカンドライフには経済的な基盤の確保が重要です。日常生活費、税金・社会保険料などの支出と公的年金などの収入のバランスを確認し、必要に応じて退職金や貯蓄を活用することが求められます。その際、旅行、リフォームや耐久消費財の購入などまとまった資金が必要なイベントも考慮する必要があります。消費のダウンサイジングや生活スタイルの見直しも求められます。ストレスを少なくする工夫も大切です。セカンドライフへのマインドセットは欠かせません。
次に、金融資産の活用を考える必要があります。定期預金や国債などの安全性の高い商品に加え、投資信託や株式などへの投資も検討しましょう。投資は単に「増やす」という観点だけではなく、長いセカンドライフですから「資産をインフレ(物価上昇)に連動させる」という観点も重要です。政府・日本銀行はデフレからの脱却・安定的な形でのインフレを目指しているため、インフレに連動する資産(≒投資信託や株式、外貨建て資産など)を一部組み入れることも考えてください。もちろん投資にはリスクが伴います。投資は「お金に働いてもらうこと」と表現をすることもありますが、「過労」にならないよう余裕のある金額の範囲で検討してください。
また、現役で仕事をできるだけ続けることも検討しましょう。働くことで収入を得るだけでなく、社会とのつながりや健康を維持することができます。パートタイムやフリーランスの仕事など柔軟な働き方で、無理なく働き続けることも可能です。生涯現役で、経済的な安定、社会とのつながり、心身の健康のバランスをとりながらセカンドライフを充実させることも有力な選択肢です。
親の介護
60代になると、親の加齢とともに介護が現実的な問題となります(資料1)。介護には多くの費用がかかるため、事前にどのような費用が発生するかを把握しておくこと、家族で費用分担のルールなどを決めておくこと、地域包括支援センターなどの専門家に相談することが重要です。介護保険制度を理解し、利用できるサービスは積極的に活用してください。
(資料1)
注:性・年齢階級別人口に占める受給者割合(%) = 性・年齢階級別受給者数/性・年齢階級別人口×100
人口は、総務省統計局「人口推計 令和5年10月1日現在(確定値)」の総人口を使用した。
出典:厚生労働省「令和5年度 介護給付費等実態統計の概況令和4年」をもとにアセットマネジメントOneが作成
また、親の介護費用を捻出するためには、親の公的年金に加えて、資産状況を把握することも大切です。親の預貯金や不動産の状況を確認し、必要に応じて資産を整理することも考えましょう。特に、不動産を売却する場合は、事前に専門家に相談すると良いでしょう。ただ、資産の整理は親の意思・契約を理解する能力が必要です。認知症などで適切な意思表示ができないような状況になると対応が限定されます。
さらに、介護と仕事の両立も重要な課題です。介護に専念するために仕事を辞めることは、経済的な負担を増加させるリスクがあります。介護休業給付金を受給したり、介護休暇制度や在宅勤務など、働きながら介護を行うための制度を活用することで、仕事と介護の両立が可能となります。柔軟な働き方を模索することが大切です。
親の相続
親の相続について考えることも、60代にとって重要なテーマです。相続は家族間でのトラブルを避けるために、早めに準備を進めることが大切です。ここでのポイントは相続の際に家族間の争い(「争族」)を回避することです。親と兄弟姉妹間でのコミュニケーションが重要です。例えば、財産をどのように分けるか、事前に話し合っておくこと、可能であれば遺言書を作成することで、後々のトラブルを防ぐことができます。「争族」は珍しいことではないのです。
また、相続税の対策も必要です。相続税には一定の基礎控除などがありますが、それを超えると相続財産に応じて税金がかかります。2015年(平成27年)から相続税の基礎控除が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」に引き下げられて以降、相続税が課税される割合が増加し、2022年(令和4年)には約1割になりました(資料2)。
(資料2)
出典:国税庁「令和4年分相続税の申告事績の概要」をもとにアセットマネジメントOneが作成
特に、首都圏などの不動産は評価額も高く、相続税が高額になることがあります。そのため、生前に不動産の評価額を確認し、必要に応じて売却や分割などの対策を検討することも重要です。相続には専門的な問題が多いため、対策は専門家とも相談しながら、できることから早く開始することが重要です。
60代に必要なセカンドライフへのスムーズな移行、親の介護、相続といった課題に対処するためには、事前の準備と計画が不可欠です。情報を収集し、専門家の助言を受けながら、準備を進めましょう。そして、親の介護、相続の経験から、自らの介護予防のための取り組み、相続準備などもしっかり考えてください。
(執筆 村井幸博)