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【調査を読み解くシリーズ】プラチナNISA報道で話題の毎月分配型投資信託の気になるデータ

2025/05/09

新たにコラム「調査を読み解く」の連載をスタートします。このシリーズでは、金融経済教育推進機構(J-FLEC)や日本証券業協会、投資信託協会などが公表するアンケート結果やデータをもとに、独自の視点や研究所の知見などを交えて分析したいと思います。 第1回では、投資信託協会が行ったアンケート調査(※1)を使って、プラチナNISAの報道で話題となった毎月分配型投資信託について気になるデータを見ていきます。

※1:投資信託協会「2024 年(令和6年)投資信託に関するアンケート調査報告書(全般編)」

年代別の毎月分配型投資信託の保有状況

2025年4月、65歳以上の高齢者向けNISA(プラチナNISA)創設が検討されているとの報道がありました。 65歳以上の高齢者層が利用できる「プラチナNISA」制度を新たに創設し、毎月分配型投資信託(以降、毎月分配型)を対象商品に加えることで、分配金を月々のインカム収入として得たいという高齢者層の投資ニーズに応えるというものです。詳細については、コラム「プラチナNISAの報道を受けて」をご覧ください。
この報道以降、毎月分配型がメディアやSNSなどで取り上げられる機会が増えました。

毎月分配型は、投資している資産から分配金が毎月支払われるため、複利効果を最大限に活かせず、資産形成の基本である「長期・積立・分散」には適していないと考えられています。
しかし、投資信託協会が2025年3月に公表した「2024 年投資信託に関するアンケート調査報告書(全般編)」によると、現在投資信託を保有している人の中で、20代が70代を上回り、最も毎月分配型の保有率が高いという意外な結果でした。(【図表1】)

【図表1】

毎月分配型の保有状況(現在投資信託保有層)

毎月分配型の保有状況(現在投資信託保有層)

出所:投資信託協会「2024 年(令和6年)投資信託に関するアンケート調査報告書(全般編)」を基にアセットマネジメントOne作成

70代以上の多くの方は安定的な収入が年金のみとなるため、運用しながら資産を取り崩す毎月分配型の保有率が他の世代と比べて高いのは理解できますが、それよりも20代の保有率が少し上回っています。この20代の投資行動は決して合理的とは言えません。

20代は毎月分配型に対して特別な理由がなく魅力を感じてしまっている

【図表2】を見ると、毎月分配型に対して魅力を感じている割合が最も高いのは20代で、「魅力を感じる」と「やや魅力を感じる」と回答した割合を足すと37.5%でした。

【図表2】

毎月分配型の魅力度(対象者全員)

毎月分配型の魅力度(対象者全員)

出所:投資信託協会「2024 年(令和6年)投資信託に関するアンケート調査報告書(全般編)」を基にアセットマネジメントOne作成

【図表2】はアンケートの対象者全員における結果ですが、現在投資信託保有者に限定した【図表3】を見ると、驚くべきことに60.1%が毎月分配型に魅力を感じていると回答しており、この結果が保有率の高さにも表れています。
(ちなみに、保有率が2番目に高かった70代の値は、保有率が39.8%に対して、魅力に感じている割合は37.0%と保有率の方が高いという意外な結果でした。)

【図表3】

毎月分配型の魅力度(現在投資信託保有層)

毎月分配型の魅力度(現在投資信託保有層)

出所:投資信託協会「2024 年(令和6年)投資信託に関するアンケート調査報告書(全般編)」を基にアセットマネジメントOne作成

毎月分配型に対して魅力を感じている割合が高い20代ですが、どこに魅力を感じているのでしょうか。毎月分配型に魅力を感じている現在投資信託保有者の回答が【図表4】です。

【図表4】

毎月分配型に魅力を感じる理由(毎月分配型魅力者・現在投資信託保有層)

毎月分配型に魅力を感じる理由(毎月分配型魅力者・現在投資信託保有層)

出所:投資信託協会「2024 年(令和6年)投資信託に関するアンケート調査報告書(全般編)」を基にアセットマネジメントOne作成

年代別に特に大きな特色は見られませんし、20代の回答で特に目立つものもありません。

分配金に対する20代の誤解

【図表5】は現在毎月分配型を保有している人の「分配金」の特徴に対する認知状況です。20代はどの項目も認知割合が他の年代より低く、最も特徴を認知している項目でも5割を下回る認知に留まっていました。特に「分配金が支払われた額だけ、基準価額が下がる」という特徴への認知割合は24.4%しかなく、分配金を「うちでのこづち」のように誤解している節も見られます。

【図表5】

分配金の特徴認知状況(現在毎月分配型投資信託保有者)

分配金の特徴認知状況(現在毎月分配型投資信託保有者)

出所:投資信託協会「2024 年(令和6年)投資信託に関するアンケート調査報告書(全般編)」を基にアセットマネジメントOne作成

一方で、60代や70代は分配金の特徴を把握しながら保有している傾向が見られます。60代・70代は金融商品を取引する際、オンラインよりも金融機関の営業担当者経由の割合が大きいと言われています。毎月分配型の購入の際、担当者が分配金の説明を行っていることが、高齢者層の分配金に対する理解が進んでいる理由の一つと考えられます。

高齢者層には改めて、資産形成層には新たに、「分配金」に関する啓発活動が重要

冒頭で取り上げたプラチナNISAがスタートするとなると、毎月分配型への注目が再び高まることが予想されます。 過去を振り返ると、毎月分配型がブームとなった際に、分配金に関する説明が不足しているのではないかとの問題が指摘され、顧客に対するわかりやすい情報提供が強く求められるようになりました。新制度がスタートすると、制度を活用して新たに毎月分配型を購入する高齢者が増えることが予想され、改めてわかりやすい情報提供が重要になります。
また、毎月分配型の関心が高まることで、若い世代の資産形成層も少なからず関心を持つことが考えられます。若い世代の多くはオンラインで金融商品を取引しています。そのため、自分で情報を集める必要があります。分配金に関する誤解を減らし、合理的な投資行動を促すためには、情報を得やすく、分かりやすく説明する仕組みやコンテンツが必要です。情報の提供方法や内容を工夫し、若い世代がより理解しやすい形で提供することが重要となってきます。

(執筆 : 坂内 卓)

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