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FPシリーズ(13):病気やケガのときの所得保障~傷病手当金など

2022/08/19

知恵のハコ

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会社員の方であれば、予期せぬ病気やケガで働けなくなった時に、健康保険から「傷病手当金」と、労働者災害補償保険(労災保険)から「休業(補償)等給付」が支給されます。
こうした公的保険があることを知ることで、日頃から準備しておかなければならない資金の目安をつけることができると思いますので、今回はこうした所得保障について解説します。

労災保険の災害の種類

FPシリーズ(11)でご紹介したように、公的医療保険には会社員のための健康保険と自営業者のための国民健康保険があります。国民健康保険は業務上外を問いませんが、健康保険は業務災害以外を対象としているため、会社員の業務災害をカバーしているのが労災保険となります。

まず初めに、労災保険について、どのような災害に対応しているのか見てみましょう。労災保険の災害は下記の3種類に分類されます。

業務災害 業務が原因となって起きた負傷、疾病、障害、死亡をいいます。一般的に仕事中や出張中の災害のことです。業務上の疾病には脳・心臓疾患や心理的負荷による精神障害なども含まれます。
複数業務要因災害 2以上の事業の業務を要因とする事由による負傷、疾病、障害、死亡をいいます。いわゆるダブルワーカーの人たちが対象で、脳・心臓疾患や心理的負荷による精神障害なども含まれます。
通勤災害 通勤による負傷、疾病、障害、死亡をいいます。合理的な経路および方法による通勤が対象で、会社帰りに映画館で映画を観た帰りや、居酒屋で一杯やった帰りは通勤に含まれません。

そして、業務災害、複数業務要因災害、通勤災害によって保険給付の名称が異なります。
例えば、休業の補償であれば、業務災害では「休業補償給付」、複数業務要因災害では「複数事業労働者休業給付」、通勤災害では「休業給付」となっていて、それらを総称して「休業(補償)等給付」と呼ばれています。
よって、本コラムでは、労災保険の給付を「〇〇(補償)等給付」「〇〇(補償)等年金」という表記をすることにします。

会社員のための2つの所得保障

まず、傷病手当金と休業(補償)等給付について比較してみましょう。下記の表をご覧ください。

【傷病手当金と休業(補償)等給付の比較】

  傷病手当金 休業(補償)等給付
保険制度 健康保険 労災保険
傷病の原因 業務災害以外 業務災害等(業務災害、複数業務要因災害、通勤災害)
支給要件 ・療養のために労務不能であること(医師による証明必要)
※美容整形手術は対象とならないが、自費診療による療養や自宅静養でも認められる場合がある。
※任意継続被保険者は支給されない。
・業務上の負傷・疾病により療養していること
・療養のために労働することができないこと(医師による証明必要)
・労働不能のため賃金が受けない日があること
待期期間 継続する3日間(公休日を含む)
※待期期間に年次有給休暇を取得しても待機は完成する。
通算して3日間(公休日を除く)
※業務災害の場合、会社から待期期間に休業補償を受けられる。
支給額
(1日当り)
直近1年間の各月の標準報酬月額の平均額×1/30×2/3
※協会管掌健康保険の場合は、1日6,667円が上限。
(直近3カ月間の賃金総額÷直近3カ月間の総日数)×60%
上乗せ給付
(1日当り)
なし (直近3カ月間の賃金総額÷直近3カ月間の総日数)×20%
※上乗せ給付は、社会復帰促進等事業の休業特別支給金。
支給期間 支給開始日から、通算して1年6カ月まで
※公休日も支給対象となる。
※支給開始後に退職した場合、給付は継続されるが、退職した後に一旦労務可能になって支給停止となった後は、再び労務不能となっても支給は復活しない。
治癒(症状固定)するまで期限なし
※公休日も支給対象となる。

※「公休日」とは一般的に就業規則等に規定されている会社が定めている「休日」のことです。

ご覧にように、傷病手当金と休業(補償)等給付を比較してみると、休業(補償)等給付の方が手厚いことが分かります。これはFPシリーズ(1)でも述べたように、労災保険が使用者の労働基準法上の災害補償責任を肩代わりするための保険だからです。

特に支給額と支給期間にそれが表れています。 支給額については、傷病手当金はざっくり給料の3分の2が支給されるのに対し、休業(補償)等給付は上乗せ給付も併せると8割が支給されます。

休業(補償)等給付の支給期間は、療養開始から治癒(症状固定)することなく1年6カ月経過した場合は、そこで障害等級(3級以上)に該当するかどうかの判定が行われ、障害等級に該当すれば「傷病(補償)等年金」に切り替わり、治癒後には「障害(補償)等給付」に切り替わります。 もし、その後に会社を退職することになったとしても、労務不能が続く限りは給付が継続されます。

また、休業(補償)等給付の計算に使われる賃金(休業給付基礎日額)は、世の中の平均賃金の変動や賃金カーブに合わせてスライドさせていく仕組みになっていますので、仮に休業が何年にもわたったとしても、年齢に見合った水準の給付が受けられるようになっています。

一方で、傷病手当金は支給開始から「通算して1年6カ月」に達すると支給は打ち切られます。
以前は、傷病手当金の支給期間は支給開始から「継続して1年6カ月」だったのですが、がん等の長期の治療が必要となる病気の場合だと入退院を繰り返すケースもありますので、少しでも長く支給して、病気治療による離職をなくそうとの意図から2022年1月より「通算」に変更されました。

ただ、傷病手当金の良い点としては、会社を退職しても通算して1年6カ月間までは、傷病手当金の継続給付を受けられることです。会社を退職する前に受給を開始していなければなりませんが、会社を辞めた後の生活の支えになってくれるはずです。

では、もう少し詳しく見てみることにしましょう。
一般的に会社員の場合は、健康保険と厚生年金保険の被保険者となりますので、その二つをセットで考えてみます。
下図の赤枠で囲ったものが健康保険でカバーされる部分で、これに厚生年金保険を組み合わせてみると、細かな支給要件等は異なるものの、業務災害を対象とする労災保険と重なるのが分かると思います。
厚生年金保険と労災保険は重複しますが、そこはFPシリーズ(6)でも説明したように、厚生年金保険は満額支給され、労災保険が減額調整されて支給されます。

【会社員を対象とした社会保険のイメージ】

会社員を対象とした社会保険のイメージ

本シリーズで、筆者が駅で転んでケガをしたときに労災保険のお世話になったと書きました。 上図では、労災保険の「療養給付」が支給されたわけです。 当時は労災の仕組みも分からず、その日は健康保険証を持っていませんでしたのでちょっと心配でした。しかし、会社から紹介してもらったクリニックに行くと、治療費はすべてタダだったことに驚いたのを憶えています。

傷病手当金とその他の給付等との関係は?

では次に、傷病手当金が支給された時に、その他の公的保険の給付を受けることができる場合はどのように調整されるのかご説明しましょう。 下表にまとめましたのでご覧ください。

【傷病手当金の調整ルール】

調整対象 調整内容
報酬 健康保険
休業(補償)等給付 休業(補償)等給付を受けている場合は、業務災害以外の傷病に罹っても傷病手当金は支給されません。
ただし、休業(補償)等給付よりも傷病手当金が多い場合は差額が支給されます。
障害厚生年金 原則として傷病手当金は支給されません。
ただし、1日当りの障害厚生年金よりも傷病手当金が多い場合は差額が支給されます。
障害手当金 原則として傷病手当金の合計額が障害手当金の額に達するまで、傷病手当金は支給されません。
老齢退職年金給付
(老齢基礎年金、老齢厚生年金等)
退職後の傷病手当金は支給されません。
ただし、1日当りの老齢退職年金給付よりも退職後の傷病手当金が多い場合は差額が支給されます。(退職していなければ調整は行われません。)
出産手当金 出産手当金が優先して支給されます。
ただし、出産手当金よりも傷病手当金が多い場合は差額が支給されます。

上の表を見て分かるように、傷病手当金は最も優先度が低い給付であることが分かります。
他の給付を受け取ることができる場合は、できるだけ傷病手当金は支給せずに他の給付に任せましょうという意図が窺われます。 要するに、健康保険はあくまでも“医療保険”であり、“所得保障”は特約みたいなものだということです。

いかがでしたでしょうか?
健康保険と労災保険に所得保障があるというのは、あまりご存じ無い方も多いのではないでしょうか。しかし、これらはイザというときに生活の大きな支えになってくれることは間違いありません。
ちなみに、「ケガをして会社を辞めたら、失業保険(雇用保険の基本手当)をもらえば良いじゃないか。」という話も聞きますが、ケガによって労務不能である場合はハローワークで失業認定が行われませんので、失業保険(雇用保険の基本手当)を受け取ることはできませんからご注意ください。

次回は、労災保険についてもう少し詳しくご説明したいと思います。是非ご期待ください。

執筆:1級ファイナンシャル・プランニング技能士/1級DCプランナー 花村 泰廣

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