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【世の中の動きとお金&マーケット】インフレと円安にどう備えるか②:資産形成と通貨分散

2026/07/24

前回は、為替介入が行われても円安トレンドそのものを変えることは難しい、という点をお話ししました。今回は、私たちの長期的な資産形成において「通貨分散」を考える意義について整理したいと思います。

なぜ通貨分散を考えるのか?

私たちは、日本に住んでいる以上、基本的に日本円で生活しています。日本円で収入を得て税金や社会保険料を払い、生活に必要なものも日本円で決済しています。海外旅行や留学、海外サイトでのネットショッピングなどをしない限り、日本円以外の通貨で買い物をする機会は多くないでしょう。そう考えると、「それなら資産形成で通貨分散をする必要はあるのか?」と疑問に思う方もいるかもしれません。

また、2026年6月に日本銀行が利上げを行い、「金利のある世界」がますます定着するなかで、為替リスクのある外貨にあえて資産を置く必要はないのではないか、という考えにも一理あります。

それでも筆者が、資産形成において通貨分散も考慮すべきだと考える理由は、(1)インフレへの備え、(2)不確実性への備え、の2点です。今後も日本に住み続けるのであれば、資産形成の基本が日本円ベースであることは言うまでもありません。ただ日本は、食料もエネルギーも相当部分を輸入に頼っています。加えて、政府が巨額の財政赤字と政府債務を抱えるなかで、世界に先駆けて超高齢社会に突入していくことを考えると、日本、ひいては日本円の国際的な立ち位置は今後さらに厳しいものになる可能性が高いでしょう。その意味で、「日本円への集中リスク」も意識すべき時代に来ているのではないでしょうか。

円安とインフレ

まず、インフレへの備えについてです。よく知られている通り、日本は生活に必要不可欠な物資の多くを輸入に頼っています。農林水産省によると、カロリーベースの食料自給率は2024年度で38%です。また資源エネルギー庁によると、2023年のエネルギー自給率は15.3%で、OECD38ヵ国中37位という低い水準です。

そのため、円安によって輸入物価が上がれば、いずれ私たちの生活に必要な物資の価格にも影響が及びます。もちろん、輸入前の国際価格の変化、輸入企業の努力、物資によっては政府の支援(ガソリン補助など)もあるため、円安がそのまま物価上昇につながるわけではありません。それでも一定の影響があると見るべきでしょう。

図1は、ドル円レートの年間変化率(各月の平均レートの前年同月比)と、消費者物価指数(CPI)の前年同月比を比べたものです。ドル円の変化が国内の物価に反映されるまでには時間差があるため、ここでは12か月のラグ(遅れ)を取っています。つまり、CPIを2026年4月で見るなら、ドル円は1年前(2025年4月時点)の変化率を見る、という合わせ方です。

過去20年の推移を見ると、両者の相関係数は約0.6で、比較的強めの相関が見られます。つまり、ドル円レートの年間変化率が高い(円安に動いている)ときは、その1年後のCPIも高めに出る傾向(インフレ傾向)が強いということです。直近は再び円安方向に動いているため、今後は物価上昇への圧力が強まる可能性があります。

図1:ドル円レートの変化率とCPI(前年同月比)の推移

ドル円レートの変化率とCPI(前年同月比)の推移

出所:総務省、LSEGのデータよりアセットマネジメントOne作成。データは2006年5月から2026年6月(月次)。

※上記は過去の情報であり、実際に投資した場合の将来における投資成果等を保証するものではありません。

日本円の購買力の低下(REER)

もう一つ着目したいのが、実質実効為替レート(REER:Real Effective Exchange Rate)です。REERは、簡単にいえば「ある通貨の国際的な購買力」を示す指標です。日本の場合、主な貿易相手国との為替レートと、お互いの物価動向を考慮して計算され、円の国際的な“強さ”(購買力)を捉えることができます。

図2は、日本円のREERの2000年からの推移を示したものです。このデータは2020年時点の数値を100としたものであり、数値自体に大きな意味はありません。ただ、数値が下がるということは日本円の国際的な購買力が低下していることを意味します。これをみると、21世紀以降日本円の購買力が大幅に低下しており、2020年以降は下げがさらに進んでいることがわかるでしょう。REERはインフレ率がほかの国より低いことが影響しますので、日本が長年デフレに苦しんできたことを考えると実際以上に低く見えてしまうことはあります。しかし、デフレからインフレに世の中が変わる中でも円安によって日本円の購買力は低下を続けており、憂慮すべき状況だと思います。

図2:日本円の実質実効為替レート(REER)の推移

日本円の実質実効為替レート(REER)の推移

出所:BIS(国際決済銀行)のデータ(Broadベースの実質実効為替レート)よりアセットマネジメントOne作成。データは2000年1月から2026年4月(月次)。

※上記は過去の情報であり、実際に投資した場合の将来における投資成果等を保証するものではありません。

通貨分散による効果

ここまで、円安と物価上昇の関係、そして円の購買力低下について見てきました。これらに対応する一つの手段として、通貨分散を考えてみたいと思います。

読者の皆さんの中には、NISAの積立投資で海外、特に米国の株式インデックスに投資している方も多いかもしれません。これは実質的に米ドル建て資産への投資でもあるため、通貨分散になっています。株式インデックス以外にも、比較的安定性の高い債券、外貨建て債券、または外貨建て債券に投資する投資信託などを通じて、通貨分散を行うことも可能です。

外貨資産による利息や分配金などの収入を確保できれば、円安が進んで物価が上がった際に、外貨収入は円ベースで増えやすくなります。その結果、輸入物価の上昇を一定程度吸収しやすくなるでしょう(ここでは話が複雑になるため税金は論じません)。

参考までに、年金積立金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の基本ポートフォリオでは、国内株式25%、国内債券25%、外国株式25%、外国債券25%となっています(表1)。個人で資産の半分を外貨建てにするのは簡単ではありませんが、それぞれの状況に応じて一定の外貨資産を持ち、通貨分散を図ることは、長期の資産運用の観点でも重要でしょう。

表1:GPIFの基本ポートフォリオ

GPIFの基本ポートフォリオ

 

出所:GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のHPより抜粋

とはいっても、歴史的な円安水準のもとで外貨資産を増やすことに抵抗を感じる方もいるかもしれません。そんな方に筆者がおすすめしたいのは、毎月など決まったタイミングで、決まった額の外貨を積み立てていく方法です。たとえば、月に5,000円ずつ米ドルやユーロ、豪ドルなどに替え、その通貨建ての債券(国債や社債)、相応の分配金を出すインカム型の外貨建て投資信託を購入することも一つの手です。こうすれば時間分散(いわゆるドルコスト平均法)で外貨を積み立てられるため、為替変動による損益が気になる方でも、リスクを抑えながら長期の資産形成に臨みやすくなります。

これを長期的に続け、外貨でのインカム収入を一定程度確保できれば、為替の短期的な動きに一喜一憂しにくくなります。たとえ円安や円の購買力低下が続いたとしても、それに耐えやすい資産ポートフォリオを作っていくことができるでしょう。

(執筆 : 石橋 克巳)

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